”予期せぬ妊娠”は誰にでも起こりうる…漫画家・鳥飼茜が伝えたいこと
漫画家だからこそできること
妊娠・中絶をテーマにしたのは、“しばしの休息中”に見たドラマの影響が大きかったという。 鳥飼海外、国内問わずさまざまな作品を見ていて、中絶って、「10代の子に訪れるアンラッキー」的なストーリーで取り上げられることが多いなと感じたのですが、若い世代だけでなく、どの世代の人にとっても関係のあることですよね。 また、ここ数年、緊急避妊薬(アフターピル)や経口中絶薬についてのニュースを見聞きすることが増えて、予期せぬ妊娠や中絶をめぐり、たくさんの女性が不安で理不尽な思いをしているのではないかということも気になっていました。日本国内でも経口中絶薬が認可されたという情報がきちんと発信され、多くの女性が認知出来るようになってほしいし、課題に対しても積極的に要求できる社会になってほしいと思っています。 予期せぬ妊娠は、生理がある女性には起こりうることです。男女関係なく、中絶に関する情報はとても大切なことですし、自分の子ども世代に、より負担が少ないものを選ばせてあげるためにもより多くの選択の自由を要求していく必要があると考えました。 もちろん、“予期せぬ妊娠”が起こらないことがいちばんです。そのためには、性教育も大切な要素だと思いますし、普通に性教育が行われる環境ができるとよいと思っていますが、私は漫画家であって教育者ではありません。 どんな人でも避妊を失敗することはあるし、失敗した時にどういうパターンの解決策があるかということを、漫画という媒体は描きやすいと思いましたし、その作品のなかで、「妊娠してしまった」という出来事だけではなく、「妊娠してしまった」後の行動について描いておくことで、漫画家として少しは役に立てるのではないかと考えました。
「起こらないはずがない」と決めつけない世界観を描きたかった
――“予期せぬ妊娠”は生理がある限り、起こりうること。だからこそ、「“予期せぬ妊娠”が起こった後、選択できる手段を知っておく大切さについて考えた」と鳥飼さんは話す。 鳥飼「予期せぬ妊娠」については、(犯罪被害でない限り)特に妊娠した女性に対して、避妊をしなかった自己責任の問題、「愚かさ」や「過ち」が原因とみなされがちだと感じています。人はつねに完璧でありたいと思っても完全ではなく、また避妊自体も現状100%完璧なものはありません。特に性的な場面ではムードが幅を利かせ、空気に流されてしまうことも珍しいことでは無いと思うんですよね。だからこそ、「ハプニングは起きて当然」という世界を漫画で描きたかった。 鳥飼さんが経口中絶薬について知ったのは、2020年に、フランスの漫画家オード・ピコーさんとオンラインで対談したことがきっかけだという。 鳥飼私自身、恥ずかしながら、それまで経口中絶薬についての知識がほとんどありませんでした。対談をさせていただくにあたって、パリに住む30代の独身女性の恋愛模様を描いたオードさんの漫画『クレール パリの女の子が探す「幸せ」な「普通」の日々』を読んだのですが、作中、妊娠をした女性が病院で経口中絶薬を出されるシーンが、私が認識していた中絶の手段とはまったく違っていて驚きました。聞けば、フランスでは30年以上前から、経口中絶薬が処方されていたというんです。めちゃくちゃびっくりしてすぐに自分でも調べてみました。 日本では、経口中絶薬は2023年4月に承認され、厚生労働省の調査では、2024年435件の使用が確認されたという(2024年7月)。同年11月には、緊急避妊薬(アフターピル)の、医師の処方箋なしでの試験販売がスタートしている(一部薬局のみでの実施)が、さまざまな課題が山積みで、女性たちにとって選択しやすい環境になっているかというとそうではない。 鳥飼アフターピル、私も飲んだことがあります。超高額で副作用についても悩みましたが、「これで終われるのならいい」と安心したこともよく覚えています。やはり心理的な負担や不安は女性にかかってくるので、それが解消できるというのは大切なことだと感じました。