殺虫剤が効かない蚊も撃退、いま注目の新たな蚊の駆除法とは デング熱の流行は史上最悪に
伝統的な蚊の駆除法の効果が失われてきたなかで期待の最新技術
殺虫剤や蚊帳の普及により、蚊が媒介するマラリアやデング熱などの感染症にかかる恐れは、数十年にわたって軽減されてきた。けれども近年、蚊がこれらの対策を逃れるように進化しており、蚊媒介感染症の根絶に向けた戦いは失速し、押し戻されつつある。気候変動による温暖化も、蚊の生息域を拡大させ、蚊媒介感染症の蔓延を助長している。2023年は米国で約20年ぶりにマラリア感染が発生し、7月27日付けの医学誌「The Lancet」の巻頭言によると、2024年のデング熱の流行は史上最悪となった。 【動画】なぜ逃げられる?蚊が飛ぶ瞬間の謎を解明 伝統的な蚊の駆除法の効果が失われてきた今、研究者たちは新しい手段を開発中だ。すでに実用化されているものもあれば、規制当局から承認されるまでまだ何年もかかりそうなものもある。なかでも有望で、殺虫剤よりも環境にやさしく、新時代の蚊駆除の一角を占めると期待されている3つの方法を紹介する。
蚊に細菌を寄生させる
新しい駆除法の1つは、実験室ではなく自然界からもたらされた。昆虫の過半数に寄生している「ボルバキア」という細菌だ。 ネッタイシマカ(Aedes aegypti)は自然にはボルバキアに感染しないが、昆虫学者のスコット・オニール氏らは2009年に、人為的にボルバキアに感染させたネッタイシマカが、デング熱、ジカ熱、マラリアなど、多くの病原体をほとんど媒介できなくなることを発見した。 ボルバキアが病原体の感染を妨げるしくみはまだ解明されていないものの、オニール氏が代表を務める非営利団体「ワールド・モスキート・プログラム」は、ボルバキアを利用した蚊の駆除プログラムの開発と試験に取り組んでいる。蚊の卵にボルバキアを注入して感染させ、成長した蚊を感染地域に放すのだ。 2011年以来、このプログラムはオーストラリア、インドネシア、ブラジルなど11カ国で、数百万匹の蚊を試験的に放出してきた。「私たちは通常、その地域の蚊の60%がボルバキアを持つようになるまで放出を続けます」とオニール氏。「あとはボルバキアが勝手にやってくれます」 2021年にインドネシアのジョグジャカルタで行われた放出試験では、ボルバキアを持つ蚊はデング熱の患者数を77%、入院患者数を86%減少させた。オニール氏によると、オーストラリアの一部では、デング熱の感染は基本的になくなったという。 オニール氏によると、ボルバキアを利用した蚊の駆除は、気温の変動が大きい地域ではうまくいかないかもしれないという。また、数百万個の蚊の卵にボルバキアを注入して、コミュニティーに配布する負担も大きい。