AI小説や絵画などの著作権問題 考えられる課題と方向性
今年3月、人工知能(AI)を搭載した囲碁ソフトが、初めてプロ棋士に勝利する快挙を成し遂げました。同じ3月には、ショートショートの文学賞「星新一賞」でAIが制作した作品が一次選考を通過したことが話題になりました。AIの技術開発は目覚しく、実際にレンブランドの作風を完全自動化して描けるなど、今では人間の手を煩わせることなく、小説や絵画を制作できるまでになっています。そしてこの発展により、課題となっているのが「AIの創作物に著作権を認めるかどうか」「その著作権は誰のものなのか」ということなのです。 【写真】AIボット「Tay」はなぜ暴走した? 意外にも長い人工知能の歴史
現在の著作権法はどう規定されている?
「もう、いま議論しないと大変なことが起こり得る。IT全般に言えることだが、技術が先にいって法律が後追いになっている」
IT技術に詳しいグローウィル国際法律事務所の中野秀俊弁護士は、こう警鐘を鳴らし、AIが創作した作品の著作権について早期の法整備が必要だと説きます。 では現在の法律はどうなっているのでしょうか。 著作権法では、第2条第1項で、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義。さらに同条第2項で、著作者を「著作物を創作する者をいう」と定めています。 中野弁護士は「著作権法には『人がつくる』という前提があります。人の思想や感情を表現した物を著作物として保護するというものです。人間がAIをツールとして使って創作した場合には著作権は認められますが、AIが独自に創作したものに著作権が発生しないのが現状なのです」と説明します。 また、AIが自律的に生成した創作物(発明・デザインなど)についても、特許法第29条の「産業上利用することができる発明をした者」でいう自然人には当てはまらないため、特許などの対象にならないと考えられています。
政府はどう法整備をしようとしている?
そこで政府は、知的財産戦略本部で、AIがつくった音楽や小説などの権利を保護する法整備を検討する方針を打ち出し、その方向性を5月の「知的財産計画2016」で示しました。これによると、「人間の創作物」と「AI創作物」を外見上見分けることは困難であるとし、「『AI創作物である』と明らかにされている場合を除き、人間の創作物と同様に取り扱われ、その結果、一見して『知的財産権で保護されている創作物』に見えるものが爆発的に増大する可能性がある」と指摘しています。 いまの日本の著作権制度は、登録などの必要はなく、著作権は作品が制作作成されると同時に発生するという「無方式主義」を取っているため、音楽や小説といったコンテンツは、「(著作権などの)知的財産権で保護されている創作物」に見えるものが加速度的に増える可能性が懸念されるのです。 その際、「あらゆるAI創作物(著作物に該当するような情報) を知財保護の対象とすることは、保護過剰になる可能性がある一方で、フリーライド(便乗やタダ乗り)抑制などの観点から、市場に提供されることで一定の価値(ブランド価値など)が生じたAI創作物については、新たに知的財産として保護が必要となる可能性がある」としています。