イーロン・マスクが「トランプ応援」に執着するワケ…「当選の見返り」のとんでもない内容
金で政治的賛同を買う時代
それでもマスクには、自前のメディアとしてのXもあり、世論の誘導という点で、今代のルパート・マードックのようなポジションを確保しつつある。即座に自分にとって都合の良いメッセージを世界中のフォロワーにばらまけるだけでなく、どのようなタイミングでどのような手段でばらまくか、までマスクの意のままにできる。 もっとも、メディアといえば、マスクの影に隠れて、もっと根深いところでテックと政治の関わり方をジリジリと変える動きも今年の大統領選では見られた。こちらのほうが、すでに現実なだけに看過しがたいかもしれない。 ワシントン・ポストとロサンゼルス・タイムズが、編集部門が予定していた「カマラ・ハリスのエンドース」を、オーナーであるビジネスマン、すなわちワシントン・ポストはジェフ・ベゾス、ロサンゼルス・タイムズはパトリック・スーン・シオンの意向で取りやめることになった。特にワシントン・ポストは、2017年からのトランプ時代を迎えてから“Democracy Dies in Darkness(民主主義は暗闇の中で死ぬ)”というモットーを掲げたことで、オンライン時代の経営的逆境に抵抗し、加入者を増やしてきただけに、ショックは大きかった。ポスト自身が「闇に屈した」ように見えた。カマラ支持の論説文を用意していた編集委員の数名が退職し、25万人の読者が即座に契約を解除した。 マスクだけでなくこのベゾスの振る舞いも含めて、プルートクラシーの陰がアメリカを覆いつつある。「プルートクラシー」とは、「金権政治」と訳されることが多いが、アメリカにおいては文字通り「富者支配」のほうが合っている。そこから派生して「プルート・ポピュリズム」という言葉もある。「富者のポピュリズム」、要するに金をばらまいて関心を直接買うポピュリズムで、マスクが、ペンシルヴァニアを皮切りに激戦州7州で始めた「100万ドルの小切手が毎日一人に当たる!」キャンペーンが、まさにど真ん中の事例を示した。富者の金で政治的賛同を買う時代。まさに「ディール!」。そもそもトランプの選挙資金の拠出者からして、富裕層に偏ったのが今年の大統領選だった。