イーロン・マスクが「トランプ応援」に執着するワケ…「当選の見返り」のとんでもない内容
実は巧妙なキャンペーン
マスクの請願キャンペーンが巧妙なのは、表向きは署名者が共和党員として登録されていることを要求していないことだ。民主党登録者でも参加できる。だが、請願の中身として憲法修正第1条(=表現の自由)と第2条(=武装の自由)に焦点を当てることで、潜在的なMAGA賛同者にアピールしているのは明白だ。日頃マスクが所有するプラットフォームXで主張している原理主義的な「表現の自由」の保護の考えに賛同する者や、銃の所有に対して制約をつけられることを嫌う者なら、気分良く請願書にサインできる。両者を掛け合わせることで、今や絶滅危惧種扱いされる中道穏健派の共和党支持者も排除できる。 実質的に、この請願キャンペーンは、MAGAシンパではあるが選挙に行くのは面倒だと考えている怠惰なMAGAリパブリカンに、投票するための最低条件である選挙登録をさせることを目的としている。あとは彼らに実際に投票に行ってもらえればよい。もちろん、登録した人が全員、投票するとは限らない。それでも、潜在的な投票者を増やすことは、今年の大接戦の大統領選にとっては少しでも勝率を上げる努力の一つになる。 その一方で、このような射幸心を煽るプログラムに疑問が持たれないわけもない。有権者への投票に対するインセンティブの提供、という点で連邦の選挙法に抵触する疑いがあると、まずは連邦司法省が警告レターを送付した。だが、警告はあくまでも警告に過ぎないと捉え、請願プログラムを続けていたところ、今度は、ペンシルヴァニア州の「ロッタリー法」に違反しているという理由で、フィラデルフィアのローレンス・クラズナー地方検事(DA)から起訴され、速やかな差止めが請求された。だが、それでも選挙登録を促した事実は変わらない。10月に入って激戦州のほとんどで大接戦が続いている以上、その効果は無視できない。結局、DAの訴えは、投票日前日の11月4日の裁判でマスクたちの勝利で終わった。