冷静沈着にRISE頂点を極めた那須川天心はなぜ試合後にK-1武尊戦実現をアピールしたのか?
キックボクシングの「RISEワールドシリーズ」58キロ以下級トーナメントの決勝が16日、千葉の幕張メッセ・イベントホールで行われ、那須川天心(21、TARGET/Cygames)がISAKムエタイ世界バンタム級王者・志朗(26、BeWELL)を3-0の判定で下し優勝した。終始プレッシャーをかけた天心は志朗のカウンター戦法の罠にはまることなく、手数とビッグパンチで圧倒。試合後、リング上でK-1ワールドGPスーパーフェザー級王者の武尊(28)に対し「逃げも隠れもしない」と対戦を要求した。今大会の賞金1000万円は、千葉の台風15号災害復興支援と、養護施設の子供たちに手を差し伸べる「ピースプロジェクト」などに寄付をするという。
冷静沈着に戦うファイターへの成長
冷静沈着。21歳とは思えぬ狡猾なファイターの姿がそこにあった。 「自分が出ていったところに合わせくる。行こうとしても(手足を)出してこない。気をつけながら頭を使った試合だった」 スタートこそ派手だった。志朗が、先に天心の“お株”を奪う胴回し回転蹴り。「精度のないパフォーマンス。ならこちらもパフォーマンスで」とステップバックで外すと、すぐさま天心もやり返した。 だが、ここからは、殴り合い、蹴り合いの対極にある、真剣を使った武士の斬り合いのようなプロ好みのヒリヒリした心理戦となった。志朗は徹底したカウンター戦法。天心の打ち終わり、蹴り終わりの隙をうかがう。天心もプレスをかけながらもやみくもにはいかない。 「1、2というタイミングじゃダメ。1、2の3、1、2の3、4という間の取り合いだった」 打撃を繰り出すタイミングとフェイントのスピードを微妙に変えながらパンチにキックを交えたコンビネーション、得意のワンツーで攻め込んでいく。だが、志朗は、そこにムエタイ仕込みのクリンチワークで、うまく腕を絡めて、二の矢、三の矢を打たせない。 志朗のキックに対しては、天心が必ずカウンターブローをお見舞いするが、志朗は意図的なスリップダウンを使いながら、それを決定打にさせなかった。 加えてアクシデントもあった。天心は左の拳を痛め思い切り打てなくなった。 「試合前から痛くて。でも打たないと始まらない。打ち方を変えたりしたのですが、力んでしまって」 それでも2ラウンドには、ボディから攻めて左を打ち込んでいく。ロープに追い込むと、またクリンチ。みかねたレフェリーがそれをホールディングと判断し、イエローカードを志朗に提示した。天心は跳び膝蹴りから左ストレートを連打。手数で志朗を圧倒した。 最終ラウンド。ずっと受け身だった志朗がキックを使って、やっと少し前へ出てくるが、天心の右のジャブがヒット。志朗が顔をのけぞらせた。痛めた左拳を使って強引なワンツー。ガードの上からだったが、志朗がロープにまで飛ぶような威力だった。 「(志朗が)穴を何個も見つけたと言っていたのでやったことない動きをやろうと」 左ハイの3連発に、トリッキーに飛び上がって左ストレートを打つなど、天心を研究しつくしてきた志朗の計算外のパターンで攻め込んでいく。それでも最後まで自らのスタイルを崩してリスクを冒すような無謀な攻撃はしなかった。 「プレスをかけて一定の距離を保ちながら、玄人好みの試合になった。本当はガツンといきたかったが、ちょっとびびっちゃった。ジャイキリがブームなんで。それをさせないように冷静に戦わなきゃと。盛り上がったときにぱっといってやられるのがダメなパターン」 自らもRIZINのリングで拳を交えた“2冠王”の堀口恭司が、朝倉海にTKOで破れる“番狂わせ”もリングサイドで目撃した。一瞬の油断が死を呼ぶーー。 だからこそ自分を戒めた。