冷静沈着にRISE頂点を極めた那須川天心はなぜ試合後にK-1武尊戦実現をアピールしたのか?
「相手陣営に仲間もいたので」 バンテージとパーソナルトレーナーを任せている永末“ニック”貴之氏が志朗のセコンドについていたことも、どこかでひっかかっていた。すべてを見透かされているのではないか、という恐怖だ。 KOできないままゴングを聞くが、ジャッジは3者共に天心にフルマークをつけた。 判定結果を聞いて右手を上げられても笑顔はなかった。 「ほっとしてる。この試合にかけてやってきた錘を外した感じです。解き放たれた」 それが本音だろう。 「考えた試合。いっちゃえとなると、やられる、それを思い過ぎたのも悪い。もっといけたかなと思うが慎重にやった。志朗君は、作戦を最後まで遂行しようとする。決めたことだけをやってくる。そういう選手って一番嫌なんです」 自らのメンタルをコントロールして勝ちに徹した。傷ひとつない綺麗な顔。表だってわかるダメージは左の二の腕に赤い傷が残っている程度だった。 大晦日にプロボクシングの無敗の元5階級王者、フロイド・メイウエザー・ジュニアとボクシングルールによるエキシビションマッチを戦い、3度ダウンを奪われTKO負けし涙にくれた。3月に行われたRISEのワールドシリーズトーナメントの1回戦でそのショックを払拭して再起を遂げると、RIZINの2試合、AbemaTVの「那須川天心にボクシングで勝ったら1000万円」企画、元3階級王者、亀田興毅とのボクシングマッチを挟み、7月のRISEトーナメントの準決勝のスアキム・PKセンチャイムエタイジム(タイ)まで、ずっと無敗で突っ走ってきて、最後に一番欲しかったタイトルをつかんだ。 「いろんなストーリーがあった。でも最後は主人公が勝つ」 この濃厚すぎる6か月の間に天心は、それを糧にして進化した。 「めちゃくちゃ考えるようになった。時と場合に、そして、どんな選手にも対応できる。今日も考えて戦えた」 ムエタイの高峰に位置するラジャダムナン、ルンピニーの2大王者が揃った大会の頂点を極めた試合は、KO決着こそなく、地味に映る内容だったが、実のところ、天心の心技体の集大成とも言える試合だったのである。 「ちょっと休みたい。選手寿命が縮まった気がする」 試合の日に襲われる格闘家独特の緊張感や恐怖を「何試合経験しても慣れない」とも言った。おそらく、その精神は、もう限界ギリギリの状態にまで擦り切れているのだろう。天心には、今、ほんの少しの休息が必要なのかもしれない。