日本の紙の歴史 “軟水” によって独自の文化を育んできた 「日本の紙」
サスティナブルな 「再生紙の歴史」 と 「日本文化」
2つ目の紙は 「再生紙」 です。 現代において、SDGsという言葉やサスティナブルという言葉と共に注目を浴びている紙ですが、日本には独自の 「再生紙の歴史」 が存在しているので、ご紹介させて頂きます。 かねてより、日本には 「漉返紙(すきかえしがみ)」 という紙が存在します。読んで字の如く、「漉き返す紙」=「再生紙」 です。 「紙屋紙」 とも呼ばれるこの紙は、平安時代に誕生しました。朝廷において、公文書として使用された紙を、国営の製紙メーカーである 「紙屋院」 にて漉き返しを行い、作られたことからこの紙の名前が付けられました。当時、紙は 「ご奉納に値するほどの高級品」 でしたので、この 「漉返紙」 は瞬く間に全国に拡がっていきました。 では、なぜ、こんな 「漉返紙」 という紙が生まれたのか? ここでも、「軟水」 と 「流し漉き」 が秘密を握っています。紙という物質はそもそも、世界中のどこであっても、木の繊維を水中でほぐし、繊維同士が絡み合うことで作られます。このとき、水分が繊維の分子を引き寄せて結びつける力 (これを科学的には 「水素結合」 と呼びます) が働き、紙の基本的な形ができあがります。ここに日本で行われているような、「軟水」 と 「天然由来の接着剤であるネリ」 を入れると、「水素結合」 だけでなく 「ネリによる接着」 が生まれます。その結果、水素結合だけでなく、ネリによる接着部も生まれるので、日本だけは他国に比べ圧倒的に長い繊維を使えるようになるのです。この 「繊維の長さ」 が漉返紙の秘密なのです。紙は使用すればする程、繊維が傷み、削れていくものです。しかし、元々、初めて作られた紙において繊維の長さがキープされていたとしたら…? 当然、何度も使いますよね? この原理を使い、日本では室町時代から明治時代の頭まで、ご奉納された上質な紙を権力者たちが使用した後、紙屋院にて漉き返し、漉返紙となった紙を庶民が余す所なく使い、墨で真っ黒になってしまった紙を最後は 「厠」(現在で言うトイレ) で使用し、川へ流す…。その紙は、川の水の勢いで繊維がバラバラになり、その水は田畑や木々の栄養分となり、また新たな大地の恵みを生み出す…。 そんなまさに 「サスティナブル」 なサイクルが日本ではまわっていたのです。