「何やっとんじゃワレ!」飛び交う罵声…オリックス山本由伸が1イニング3与死球のプロ野球タイ記録でも勝てた理由
三塁側のベンチを発信源とする物騒な関西弁が、無観客試合ゆえに集音マイクに拾われた。 「何やっとんじゃワレ、ボケ!」 打席では埼玉西武ライオンズの8番・木村文紀が苦悶の表情を浮かべている。メットライフドームで5日に行われたオリックス・バファローズとの6回戦。オリックスがリードを2点に広げた直後の6回裏に、山本由伸のピッチングが突如として荒れ始めた。 先頭の4番・山川穂高への3球目が、ユニフォームの腹の部分をかすめた。5番・森友哉のショートゴロでランナーが入れ替わった直後、6番・中村への初球が今度は右手首を直撃。治療のために一時ベンチへ下がった。そして、二死から木村に初球のカーブがすっぽ抜け、よけた背中に命中してしまう。 プロ野球史上11人目となる1イニング3与死球の日本タイ記録。西武の面々の神経をピリピリさせ、自軍のベンチを慌ただしくさせるピンチを招いても、21歳の豪腕はマウンド上で泰然自若としていた。 「いいバッターだったので厳しくいかないと、という気持ちがあったので、その分だけ(死球が)増えてしまいました。ただ、コントロールできずにぶつけたわけではなく、ぶつけてしまった原因は分析できていたので、次のバッターを抑えるだけでした」 二死満塁にしてしまったが、その言葉通りに続く9番・川越誠司を、152キロの直球でセカンドフライに仕留めた。 うなりを上げる直球に加えてカットボール、ツーシーム、スプリット、チェンジアップ、カーブと多彩な球種を投げ分ける右腕は、シュートを多投するプランを秘めてマウンドへ上がった。
昨年6月28日に場所も同じメットライフドームでプロ入り初完封をマークするなど、昨シーズンは対西武戦では3試合に先発して2勝、防御率0.37と山賊打線を完璧に封じ込めた。迎えた今シーズンの初対決。リーグを連覇しているプライドにかけて、相手はリベンジを誓ってくる。 ならば、返り討ちにするにはどうすればいいのか。弾き出された答えが、先発へ再転向した昨シーズンのキャンプで習得したシュートだった。右バッターの胸元に鋭く食い込み、左バッターのアウトコースからはさらに逃げていく軌跡が、これまで多投していなかったがゆえに奏功した。 例えば初回。ファーストのアデルリン・ロドリゲスのエラーとヒットで迎えた一死一、三塁のピンチで山川に投じた5球目、インハイを突いた151キロのシュートがバットをへし折る。ボテボテのショートゴロで三塁走者の生還を許したものの、今日の山本は違う、という残像を西武打線にすりこんだ。 シュートの軌道が頭の片隅をよぎるからこそ、他のボールも生きてくる。再びロドリゲスのエラーで一死二塁のピンチを招いた3回裏は、3番・外崎修汰を145キロのシュートで三塁へのファウルフライに、山川を149キロのカットボールでライトフライにそれぞれ打ち取った。 今度はセカンド大城滉二のエラーで一死一、二塁となった5回裏は、2番・源田壮亮をこの日の最速となる155キロの直球でサードへのインフィールドフライに仕留める。キャッチャー若月健矢の要求とは逆のインコース低目に来たが、打ち返すことが困難なほどの球威を伴っていた。 「立ち上がりからエラーや僕のミスでピンチを作りましたが、力まず冷静にいけました。粘り強いピッチングができたのは自分の収穫であり、成長だと思います」 走者を出しながらもイニングを消化していった軌跡を、山本は自身のピッチングの幅が広がった証だとポジティブに受け止めた。味方打線が4点を追加した直後の7回裏に、源田のレフト前への当たりを吉田正尚が突っ込んだ末に後逸して三塁打とされ、外崎の内野ゴロの間に2点目を失った。