我慢や頑張りすぎをやめ、弱みを見せたほうが人は育つ
部下のワーク・ライフバランスを守るためには、リーダーの自分が頑張るしかない──そんな自己犠牲的な頑張りの先に待つのは、切なすぎる現実だと、ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏は指摘する。仕事や我慢を抱え込んでつい頑張りすぎてしまうリーダーたちは、考え方や行動をどのように変えていけばいいのだろうか。(取材・構成:林加愛) 「管理職の罰ゲーム化」が加速する日本の職場...その原因とは? ※本稿は、『THE21』2025年1月号特集「人が育ち、チームも伸びる 最高の任せ方」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
「隠れ我慢層」の切ない現実
――現在、中間管理職、とりわけ女性リーダーが「隠れ我慢層」になっている、と小室さんは指摘されています。我慢層とはいったい、どのような人たちなのでしょうか。 【小室】ひと言でいうと、真面目で責任感の強い人たちです。特に女性リーダーは「あとに続く女性たちのためにも失敗できない」と思いがちで、しばしばキャパシティを超えた仕事を、家事育児も含めてやりきろうとします。元来高い能力やタフネスを持つ人が多く、実は限界でも「我慢できてしまう」傾向もあります。 ――我慢している自覚がない、という可能性もありますね。 【小室】そうですね。それで言うと、性別を問わずよく見られるのが「プレイが多いプレイング・マネジャー」。会社から命令されたわけでもないのに、すぐに現場に出張ってしまうタイプです。 背景にあるのは、今どきの職場の欠員の多さです。育休や介護などでしょっちゅう誰かが休む状況下、このタイプの人は「ここは私が!」と反射的にカバーしてしまいます。すると感謝されるので、さらに頑張りたくなる。しかしそのサイクルの先には、かなり切ない結果が待っています。 ――「切ない」結果ですか? 【小室】はい。そんな姿を見た部下や後輩は、こう思います。「リーダーってあんなに大変なのか」「私には無理、やりたくないわ」と。そう、本人が頑張れば頑張るほど、あとに続く人たちがいなくなるのです。部下もチームも成長せず、業績も伸びず......なんとも皮肉ですよね。 ――切なすぎます。この問題、突破口はあるのでしょうか? 【小室】あります。要は、仕組みづくりです。部下の成長をモチベートするような任せ方の仕組みをつくれば、状況は変わります。 ――それは、どのような仕組みなのでしょう。 【小室】私がお勧めしているのが、「戦闘力の見える化」。メンバーの名前を書き出し、各人の戦闘力=どのレベルの仕事を任せられるかを10段階評価します。6人いるとして、戦闘力が「9・7・7・3・2・2」なら、計30の仕事を部下に任せていることになりますね。 そして、チームに求められる仕事量が50なら、残り20を上司が引き受けているということです。 上司が引き受けている20を減らすには、最も伸びしろのある3・2・2の部下が狙い目。彼らを「4・4・3」にするには何が必要か、と考えて、任せる仕事を決めます。本人にも「あなたがこのレベルまで成長するための仕事だよ」と説明すれば、意欲を持って取り組んでくれます。 ――まさに「最高の任せ方」です。ただ、多忙だとそこまで考えられないときもあるのでは? 【小室】常に完璧に行なう必要はありません。重要なのは、数値化によって上司自身の意識が変わることです。「彼の、彼女の数値をあと2つ上げたい」と認識していれば、発生したタスクに対して「とりあえず自分が」ではなく、「彼にぴったり? まだ無理?」という発想が持てます。 ――反射的なカバー癖を解除することができますね。 【小室】そうです。この方法を導入すると、業績は本当に上がります。ある程度時間はかかりますが、だからこそ上司が最初に「必ず良い結果が出る」と信じることが不可欠です。