我慢や頑張りすぎをやめ、弱みを見せたほうが人は育つ
日本の人口構造上 無理と我慢は先がない
――「信じる」は大事ですね。能力の高い人ほど「でも、自分でやったほうが早いのでは」と思いがちですが、どうすればマインドチェンジできるでしょう。 【小室】それには極意があります。「日本の人口構造」という大きな視野で捉えることです。すると、これからは一人で頑張ることさえも不可能だ、とわかるはずです。 ――どういうことでしょう? 【小室】働き手一人ひとりを、一本一本の棒グラフにたとえると、今は「縦方向」、つまり一人がプライベートを削って棒を伸ばし、労働量を増やす形です。しかしこの方法に先はありません。今後、日本の労働力人口が激減するからです。 ――頭数が減れば、一人が少々頑張ったところで......。 【小室】焼け石に水、日本終了です(笑)。でも「横方向」で考えると違った世界が見えてきます。つまり、未発掘の労働人口に少しずつ時間を提供してもらえばいいのです。例えばシニアの方々。約1700万人の65歳~75歳人口のうち、多くの方々が「短時間なら働きたい」と思っています。 また、パートタイマーにも「正社員だと残業があるから」と、あえてパートにとどまる方がいますね。長時間労働のない職場なら、その方々も正社員に加われます。こうして少しずつ時間を出し合えば、膨大な伸びしろになります。日本はまだまだ経済成長できるのです。 ――視野が一気に広がりました!国全体に起こることは、自分のチームでも起こりますね。 【小室】その通りです。それには、リーダー自身が横方向のアクションを起こすことが大事。そうしなければ、自身の評価も下がりかねません。会社も、旧来の縦型リーダーより、横型リーダー=多様な人材を活用できる人を求めるようになるからです。そこを先読みし、新しいマネジメントスキルを身につけましょう。
優しい我慢層はあるとき豹変するかも!?
――他方、「優しすぎる」タイプのリーダーもいます。「部下に負担を掛けては気の毒」と、つい肩代わりしてしまう人にもぜひ、マインドチェンジの秘訣を教えてください。 【小室】このタイプの方は、自分の体調に着目しましょう。そこを放置すると、優しいはずの方が、あるとき豹変する恐れがあります。 ――豹変ですか!? 【小室】その状況では労働時間が延びて、睡眠が不足しますね。睡眠不足の上司ほど部下に侮辱的な言葉を放つ率が上がる、と論文で立証されています。感情の発生源である脳の扁桃体が過剰活性を起こし、怒りや苛立ちを抑えられなくなるのです。 ――元々は優しさから出たことだと考えると、これまた皮肉です。 【小室】もう一つ、カリフォルニア大学にも興味深い研究があります。サマータイム制度がある州では、その時期に入ると時計が1時間進められ、住民は一時的に睡眠不足になります。その間、慈善団体への寄付額が、なんと10%も減少するそう。他者のSOSを察知して動く脳の部位が、働かなくなるからです。 ――寝ないと「助ける能力」が減るのですか。驚きです。 【小室】とすると、リーダーだけの問題ではないこともわかってきますね。睡眠不足のチームは、助け合えないチームになります。育児中のメンバーをカバーする独身メンバーが怒りを抱える、世に言う「子持ち様論争」も、実はこのあたりに原因あり。全員が1日7時間の睡眠をとれる環境が必要です。 ――心身の健康を保つには7時間睡眠、とよく言われますね。 【小室】睡眠時間のうち、6時間は身体を回復させる役割を果たし、プラス1時間で脳のストレスが取り除かれると言われています。育児中や介護中といった事情が「ない」メンバーも含め、全員が我慢せず、助け合うチームづくりを進めてほしいですね。 ――そのようなチームをつくるには、何から始めればいいでしょう。 【小室】私たちが社内で実践し、クライアントの皆さんにも勧めているのが「朝メール」「夜メール」という仕組みです。 朝一番にその日の仕事内容とスケジュール、および「今日のコンディション」をチーム全員に送り、夜にも達成状況を報告し合うのですが、特に有効なのが朝メール。全員の仕事内容が見えるので業務の偏りが防げますし、「○○の件が不安です」「娘が熱を出しています」などのコメントを元に、いつ、誰をフォローすべきかもすぐに把握できます。 ――メンバー同士の助け合いも促進されそうですね。 【小室】まさに。メンバー間だけでなく、時にはリーダーを助けてくれることも。すると、リーダーには余裕ができますね。結果、「ビジョン」に思考を割けます。自分たちの仕事の社会的意義、実現したいことなど。 ――そんなに大きな効果が......。 【小室】朝・夜メールにビジョンを書くリーダーも多いです。意外なことに、これも時間短縮につながります。大きな方向性が提示されているので、部下は、各業務がそれに沿うか否か、判断できるからです。優先順位のつけ方が変わり、無駄な動きがなくなります。これも大きな意味での、良い任せ方と言えるでしょう。