想像を絶する48年の死刑囚生活「袴田事件」 無罪判決が踏み込んだ「3つのねつ造」【2024年の重要判例】
2024年も多くの判決が下された。事件の当事者へのインパクトは当然大きいが、法令の解釈が鋭く争われるなど専門家注目の判決もあれば、報道などで社会的耳目を集めた判決もある。 一般民事事件や家事事件のほか、刑事事件や企業法務まで幅広く手がける神尾尊礼弁護士に、法曹界に留まらず社会的に話題となった著名な判決から、特に画期的だと感じた事例を厳選して、判決の振り返りとともに、重要なポイントに絞って解説してもらった。 今回取り上げるのは、「袴田事件無罪判決」(静岡地裁令和6年9月26日判決)だ。
●事案の概要
1966年6月の深夜、犯人が会社役員宅に侵入しました。物色していたところ家人に発見され、家族を含め4人が殺害されました。家に火を点けられ、全焼しました。 袴田さんはこの事件で逮捕され、連日の取調べにより否認から自白に転じました。公判では否認しましたが、結局死刑判決が確定しました。 再審請求は1度棄却されましたが、第2次再審請求でようやく検察側から任意に証拠が開示されました。2014年3月、再審開始決定及び死刑・拘置の執行停止決定が出され、袴田さんはようやく釈放されました。
●判断の骨子
静岡地裁は、以下の「3つのねつ造」があると認定して自白調書等を証拠から排除し、その他の証拠では袴田さんが犯人とは認められないとしました。 (1)自白調書 黙秘権を実質的に侵害し、虚偽自白を誘発するおそれの極めて高い状況下で、捜査機関の連携により、肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取調べによって獲得され、犯行着衣等に関する虚偽の内容も含むものである。したがって、実質的にねつ造されたものと認められ、任意にされたものではない疑いのある自白である(自白の任意性がない。証拠排除)。 (2)5点の衣類 捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされた(証拠の関連性がない。証拠排除)。 (3)ズボンの端切れ 押収経緯や検察官の立証活動の経緯等から、捜査機関によってねつ造されたものである(証拠の関連性がない。証拠排除)。