俺はトップっていう意識はない。異端だよ――「世界のキタノ」が振り返る監督業、そして芸能生活 #昭和98年
戦国時代に憧れはない
戦国時代の武家で広まっていたとされる、「男色」。 歴史的事実として知られながらも、大河などの戦国ドラマではほとんど触れられてこなかったホモセクシュアルの関係が、北野映画では赤裸々に描かれる。しかしテーマは「恋愛」ではない。忠誠を誓い、一方で裏切り、その一瞬に命を懸けた男たち。複雑に入り乱れた彼らの感情が、物語を動かしていく。だから女性の視点は、描かれない。 「当時子どもを産むのは女性だけど、戦場には小姓とか馬廻とか、親方、殿さまの代わりに死んでいくようなホモセクシュアルの関係があちこちにあった。光秀と秀吉も、信長のために死のうと思ったよね。この人のためなら死んでもいいとか、死ねと言われて自ら腹を裂くような社会には、ホモセクシュアル的な要素と、それ以上に自分自身を懸けている。それが、あの時代の男の特徴だったんじゃないのかな」 「……戦国時代に憧れ? 全然ないね(笑)。やなこった、冗談じゃないって。人質になって殺されたりするんだもんね。戦国の大名なんて、侍ならあれだけど、一般の人を平気で切って殺しちゃうんだもん。奥方ったってね、信長は手当たり次第、あちこち22人も子ども作ってるわけだ。ありゃ、嫌だね。自分がいつ殺されるかわかんないから、そういうことになるんだと思うけど。まあ、人生50年だから」
死ぬこと自体には恐怖心も何もない
北野は、もうすぐ77歳になる。 激動の「人間五十年」を駆け抜けた戦国武将たちの映画を作りながら、自身の「死」について思うことは。 「占師とか、スピリチュアルな人とか、いろんなものを見るのが好きでね。頭の半分では、『死んだら何かわかるんじゃないか』って思う。でも俺は理系のほうだから、もう片っぽで、『死んだら、何もないだけだ』とも思う。その両方の気持ちがあるね。でもなるたけ、死んだら何かわかるっていうほうが、夢があっていいなあ、と。だから死ぬこと自体には、恐怖心も何もない。ただ、興味はある。だからといって自殺するのは嫌だよ。あほらしいじゃない」 戦国時代の日本は「やなこった」。が、今も世界的に見れば、平和とはほど遠い。 そんな現代については、どのように見ているのか。 「やっぱりこれは、SNSの影響かなあ。もう大陰謀論ばっかり。ウクライナとロシアの戦争も、儲かってるのは武器商人じゃないかとか。パレスチナの問題も、相変わらず世界を牛耳ってるのはロスチャイルドかとか。そんなのばっかり出てくるから。いろいろ惑わされずに考えたいとは思うけど、なんでも何かの陰謀だっていう気になってしまう。そういう時代かな」 --- 北野武 1947年、東京都生まれ。映画監督、脚本家、漫才師、俳優「ビートたけし」。明治大学工学部特別卒業認定。漫才コンビ・ツービートとしてデビュー。1989年、主演も務めた『その男、凶暴につき』で映画監督デビュー。1997年『HANA-BI』でベネチア国際映画祭金獅子賞、2006年ガリレオ2000賞文化特別賞、2008年モスクワ国際映画祭特別功労賞を受賞。2010年フランス芸術文化勲章コマンドール、2016年レジオン・ドヌール勲章を受賞、2018年旭日小綬章を受章。11月23日より、6年ぶりの新作映画『首』が公開に。“本能寺の変”をテーマに、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康・明智光秀ら武将たちの野望、裏切り、運命を独自の解釈も交え壮大なスケールで描く。原作、監督、脚本、編集を手がけた19作目の監督作品となる。 --- 「#昭和98年」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。仮に昭和が続いていれば、今年で昭和98年。令和になり5年が経ちますが、文化や価値観など現在にも「昭和」「平成」の面影は残っているのではないでしょうか。3つの元号を通して見える違いや残していきたい伝統を振り返り、「今」に活かしたい教訓や、楽しめる情報を発信します。