コロナ下の「新しい生活様式」と食品ロス 【井出留美の「食品ロスの処方箋」】
2023年5月に新型コロナウイルス感染症が季節性インフルエンザと同じ5類になって1年が過ぎた。感染者数や死者数は大騒ぎしていたパンデミック初期よりずっと多いのに、コロナ禍は私たちの意識からすっかり離れてしまった。 百年前のスペインかぜのように、コロナ禍もこのまま忘れ去られていくのかもしれない。だとしたら、風化してしまう前に考えておきたいことがある。 それはコロナ下の「新しい生活様式」とは何だったのかという問いだ。それは私たちの暮らし、特に食や食品ロスに何をもたらしたのか。(食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美)
コロナ禍の幕開け
2020年2月27日に安倍首相(当時)が、3月2日から全国すべての小中高校に休校要請をすると、牛乳やパンなど学校給食用の食材は行き場を失い、食品ロスとなった。 コロナの第1波で、3月25日に東京都の小池知事が「不要不急」の「外出自粛」を呼びかけ、日本でもロックダウン(都市封鎖)が現実味をおびてくると「パニック買い」が発生し、スーパーの食品棚から即席めん、パスタ、冷凍食品などが姿を消した。 4月7日の第1回緊急事態宣言で「ステイホーム」という言葉が繰り返され、大手百貨店が休業をはじめると、デパ地下向けの食材は行き場を失った。
コロナ下の「新しい生活様式」
在宅勤務や休校により家族で過ごす「おうち時間」が増えると、親子でホットケーキやパンを焼いたり、産直の野菜や魚をネット通販で取り寄せ、プロの料理人の動画を参考に本格的な料理に挑戦したりと「おうちごはん」を楽しむようになった。 免疫力をあげるため発酵食品を食べたり、野菜を食べたりと健康志向が高まった。こうした「巣ごもり需要」を受け、スーパーの売り上げが伸びた。 買い物の仕方にも変化が見られた。感染リスクとなるスーパーでの買い物の回数や滞在時間を減らすため、買い物リストを用意したり、「まとめ買い」したりする動きが見られた。 ネットスーパーの利用者も増えたが、スーパー「成城石井」の調査(2020年8月)からは「生鮮食品は直接見て手に取ってから購入したい(75.2%)」と、リアル店舗を選ぶ消費者意識が浮かび上がってくる。 それはコロナ下において、消費者が食品の鮮度や期限により敏感になったことと無関係ではない。2020年5月にグランドデザイン社がおこなった調査によると、42.2%の人は食品棚に並んでいる商品の中で、もっとも期限の長いものを選ぶようになった。