コロナ下の「新しい生活様式」と食品ロス 【井出留美の「食品ロスの処方箋」】
東京オリンピックの食品ロス
東京オリンピック大会組織委員会は食品ロス対策として、感染者が出て来日選手数が減る、また予期せぬ事態で大会が開催できない場合、「キャンセルできる発注はキャンセル、発注済みのものは他の用途への転用など、無駄にしない様々な対応を行う」としていた。 しかし実際には、13万食(1億1600万円相当)ものボランティア用の弁当がこっそり処分されていたことが明るみに出た。「持続可能性に配慮した運営方針」だったにもかかわらず、無観客開催でボランティアの人数が減ったのに弁当の発注数量を減らしていなかったというおそまつさだった。 2021年12月に大会組織委員会は、ボランティア用の弁当の食品ロスは30万食で提供数の19%だったと公表した。
コロナ下の食品ロス
コロナ下は食品ロスの発生しやすい状況だったと言える。同時に食品ロスを防ぐさまざまな工夫の見られた期間でもあった。その結果、すべての分野で食品ロス量の減少が見られた(図3)。 特に外食産業では、2019年比で2021年に22%、2022年に42%と大幅に減少した。外食ほどではないが、2022年には製造・卸売り・小売りも食品ロス量を減らしている。 2022年にはロシアのウクライナ侵攻と記録的な円安のため食品価格が高騰した。帝国データバンクは相次ぐ食品の値上げによる家計負担は1世帯あたり年間68760円と試算している。 それでも値上げに応じてもらえない、消費者離れを恐れて価格転嫁に踏み込めない生産者や事業者も多く、苦肉の策としてコスト削減に取り組んだ結果が、事業系食品ロスの激減につながったのではないか。
家庭系の食品ロスの減少は、コロナ初期にスーパーの食品棚が空になる経験や感染リスク軽減のため買い物回数を減らす必要から、「過剰除去」を減らして手元にある食材を使い切る、また家庭での食事回数が増えたため、「食べ残し」を次の食事で利用する、といった行動変容が起こったためと考えられる(図4)。 「直接廃棄」については、コロナ下に消費者が食品の鮮度や期限に敏感になり、まとめ買いをして期限内に食べ切れなかったものが食品ロスになったと考えられる。食品価格の高騰で消費者意識に変化があったのか、2022年には「直接廃棄」に減少が見られた(図4)。 【筆者注】「過剰除去」とは、野菜や果物などの皮を厚くむきすぎるなど、本来なら食べられる部分まで捨ててしまうこと、「直接廃棄」とは、未開封の食品を食べずに捨ててしまうことをいう。 食品ロスの削減には、コロナ下の「新しい生活様式」よりも物価高の方が効果的だったのかもしれない。今後の分析を待ちたい。 余剰食品の減少でフードバンクへの食料提供が減っているという。貧困問題はNPOや民間企業まかせではなく、寄付しやすい環境づくりや社会保障制度の見直しなど国の施策が欠かせない。
「新しい生活様式」のいま
オンライン授業やリモートワークのない日常が戻ってくると、「おうち時間」も「おうちごはん」も聞かなくなった。飲食店のテイクアウトやデリバリーが、店内での食べ残しの持ち帰りにつながったとは言いがたい。 食品スーパーのレジ前には、足型シールが「ソーシャル・ディスタンシング」の名残として残っているが、リスト片手に買い物をする人の姿はあまり見かけなくなった。 「新しい生活様式」とは一過性のものだったのかもしれない。 コロナ下に見られた食品ロスを減らす行動変容や、「産地と食卓はつながっている」という意識が、「新しい生活様式」のレガシー(遺産)として定着することを願ってやまない。
朝日新聞社