後見人の弁護士から「ペット」呼ばわりされて……「成年後見制度」は、認知症の人や障害者を社会的エリートが搾取する仕組みではないか
お上に反対する者は許さない
香川さん一家は、過去の2人の弁護士の怠慢と人権侵害発言に加え、俊彦さんと親族の意向を無視して強権的に振る舞う家裁の対応に傷つけられた。同時に成年後見制度そのものに強い不信感を持った。 香川さん親子は、新たに選任されたH弁護士も後見人にふさわしくないとして解任を求め、俊彦さんの通帳の引き継ぎに応じなかった。その理由を真由さんは申立書に次のように書いている。 《K弁護士は本人を見て「ペットだ」と笑うなどしたのであるから、後見人(筆者注・H弁護士のこと)は、本人の権利を守るためにK弁護士から受けた被害を確認・調査する義務があるにもかかわらず、そのような確認・調査をしておらず、成年後見人としての職務を怠っている》 これに対しH弁護士は「(香川親子が)24ページにもわたる上申書を提出され、K弁護士が後見人であることに反対されたため、K弁護士は、もはや香川様らとの信頼関係を回復することはできず、そのまま後見人にとどまっていては俊彦さんご本人の利益に反すると判断した上で辞任された」として、香川親子に非があるかのように主張した。 それで家裁はどうしたか。担当したM裁判官は、トラブルの原因であるK弁護士のペット発言の事実関係と、それが香川親子を傷つけたことについて判断を示さず、通帳引き継ぎの面談を避けたという外形的事実のみをとらえて「面談しようとしない状況である以上、後見人において事実の確認・調査を怠っているとは認められない」と強引に結論付け、H弁護士の解任請求と真由さんの後見人選任申請を却下した。 これまで数千件の後見トラブルの相談を受けてきたという先の宮内康二氏は、M裁判官の対応についてこう語る。 「裁判官からすると、裁判官と裁判官が選任した後見人弁護士に盾突く者は悪人だという感覚なのだと思います。“お上に反対する者は許さない”ということでしょう」
官僚的で独善的な体質
家裁の官僚的で独善的な体質を端的に示す文書がある。後見人選任申請を却下されても、真由さんが諦めずに選任を申し立てたところ、家裁の2人の調査官は次のような「調査報告書」をまとめた。 『申立人は、第三者専門職の後見人全般に対する不信感、ひいては成年後見制度に対する不信感を表明し、専門職後見人への協力を拒否すると主張している』 『申立人が成年後見制度について十分な理解と協力が得られているとは言い難いため、後見人としては適格性が不十分と言わざるを得ないと考える』 家裁の役人の目には、香川さん親子は「お上に盾突く要注意人物」としか見えなかったようだ。 それでも香川さん親子の不屈の闘いは続いた。2017年8月には3人の弁護士について弁護士会に懲戒請求を実施。日弁連は4年も結論を先延ばしした挙げ句、3件すべてで懲戒請求を棄却した。H弁護士については、俊彦さんの納税や年金と保険手続きを怠ったことなどが懲戒理由だった。 だが政府には厳しく、身内には優しい日弁連も、A弁護士に不適切な職務怠慢があったことと、K弁護士の「言動の一部について、やや適切さに欠けるものがあった」ことだけは渋々認めた。