【追悼谷川俊太郎さん】「もう自分の死にざまにしか関心がない」内田也哉子の光になった言葉たち
「当たり前」 谷川俊太郎
WHOが新型コロナウイルスのパンデミックを宣言して1年。多くの犠牲者を出し、学校や会社が封鎖され、町中の店が休業し、東京オリンピックも延期された禍にあって、「私たちを励ます詩」をお願いした。(週刊文春WOMAN2021年春号掲載) ◆ ◆ ◆ 「当たり前」 谷川俊太郎 この一年は一日が三百六十五回あった どの一日も同じではないがよく似ていた 当たり前の土に根を下ろしていたからだろう その上で飛んだり跳ねたりはしていたが 大切なものが失くなったり 思わぬところからまた出てきたりして 腹が立ったり嬉しかったりしたが 当たり前はちゃんと心の隅に控えていた なんて幸せなんだろうと痛感することがある 突然だから理由なんか気にならない だが痛感は長続きしない 熱いコーヒーを飲み終えたら普段通り 一年はお正月から始まるとは限らない 今日から始める(或いは終える)一年も 自作の時間のメリハリだから 誰かにメールで書き初めをしてもいい いのちは派手なようで地味なもの 本気で元気で根気がある当たり前は 探さなくても一日二十四時間 良かれ悪しかれ誰の身にもついている
「週刊文春WOMAN」編集部/週刊文春WOMAN 2025創刊6周年記念号