「宙吊りにするのが一番いいんです」…超高層建築に「ことごとく活かされている」古代日本の超技術
あの時代になぜそんな技術が!? ピラミッドやストーンヘンジに兵馬俑、三内丸山遺跡や五重塔に隠された、現代人もびっくりの「驚異のウルトラテクノロジー」はなぜ、どのように可能だったのか? 現代のハイテクを知り尽くす実験物理学者・志村史夫さん(ノースカロライナ州立大学終身教授)による、ブルーバックスを代表するロング&ベストセラー「現代科学で読み解く技術史ミステリー」シリーズの最新刊、『古代日本の超技術〈新装改訂版〉』と『古代世界の超技術〈改訂新版〉』が同時刊行され、続々と増刷されています! 【画像】スカイツリー…じつは、「6世紀以来の日本技術」で建てられている それを記念して、両書の「読みどころ」を、再編集してお届けします。今回は、「五重塔はなぜ、地震や強風で倒れないのか」という謎に迫ります。
「宙吊りにするのが一番いいんです」
前回までに繰り返し述べたように、五重塔が地震や大風で倒壊しないのは、歴史的事実である。 五重塔はなぜ倒れないのか。 地震や大風に、五重塔はどのように“対応”するのであろうか。 高層の建造物である限り、五重塔が地震や大風による物理的な“力”を受けるのは不可避である。五重塔が、そのような“力”に倒されないのは、“力”に対する“対応”が巧みだからであり、その秘密が五重塔の構造に隠されているはずである。 私は、“宙吊り心柱”の構法で青森・青龍寺の五重塔を建てた大室勝四郎棟梁に、「なぜ心柱を宙吊りにしたのですか」と伺(うかが)ったことがある。答えは簡単明瞭で、「地震や大風に強い五重塔を造るには、心柱を宙吊りにするのが一番いいんです」ということだった。
「耐風性」にも「耐震性」にも効果が
青龍寺五重塔が創建された1996年当時、92歳を越えていた大室棟梁は13歳のときから大工の仕事をし、小さい頃、やはり大工だった父親に、乾燥する板の積み上げを手伝わされ、小遣銭をもらっていたそうである。せっかく積み上げた“井桁の塔”が風で倒され、くずれてしまうことがしばしばあった。そうすると、努力が徒労に終わり、小遣銭をもらえない。 ところが、誰に教わったのか、図「宙吊り錘」に示すように、錘(おもり)(あるいは「錘石」おもりいし)を縄でくくり、それを横棒に吊るして“井桁の塔”の上にかけると、相当の風が吹いても“塔”が倒れないことに気づいたのである。図「宙吊り錘」に示す宙吊りの錘が、風に対してのみならず、地震の揺れに対しても大きな効果、つまり「耐風性」のみならず「耐震性」にも大きく貢献するのは明らかだ。 大室棟梁の子ども時代のこの経験が、それから八十余年後の1996年、青森・青龍寺五重塔落慶につながったのである。 大室棟梁は、「心柱を宙吊りにすれば、塔ができあがった後、何年かして部材が乾燥したり変形したりしても、塔が壊されないからいいんです」とも付け加えた。
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