「宙吊りにするのが一番いいんです」…超高層建築に「ことごとく活かされている」古代日本の超技術
現代の超高層建築に活かされている「柔構造の思想」
関東地方一円に壊滅的な打撃を与えた大正12(1923)年の「関東大震災」の後、日本の建築・土木学界では、耐震性の建築物は「剛構造」であるべきか、あるいは「柔(軟)構造」であるべきかの論争が続いた。 剛構造とは、建築物をできるだけ剛、堅固に設計したほうが地震に対して安全であるという耐震設計思想に基づく構造方式である。剛構造は常識的でわかりやすい。設計手法も力学的に単純であるため、1960年代後半に超高層ビルが出現するまで、すべての建物に耐震壁や筋違(すじかい)を設けて、地震力に対する変形を極力少なくしようとする剛構造設計思想が取り入れられていた。 しかし、超高層ビルはどうしても柔構造でなければダメなのである。事実、現代の日本の超高層ビルはすべて柔構造で建てられている。“柔構造”の思想が、具体的には、数々の免震・制振構造として、現代の超高層ビルに取り入れられているのである。 現代の免震装置に柔構造が具体的にどう取り入れられているかは、拙著『古代日本の超技術〈新装改訂版〉』に解説したので、ご一読いただきたい。ここでは、現代の超高層ビルに取り入れられている柔構造の原理も、最先端の免震・制振装置も、すべて、はるか1300年以上前の古代日本の匠の智慧と経験に、その原点を求めることができる、ということを述べるにとどめておこう。 柔らかくしなやかな五重塔は、長い揺れの固有周期をもち、耐震・耐風性が大きいこと、また、五重塔の木組みの柔軟性、接合部の隙間や変形によって地震や風のエネルギーが吸収されること、これらすべての五重塔の特性と、それを生んだ“柔構造”の思想が、現代の超高層建築に、ことごとく活かされているのである。 さらに、木造建築のすばらしさについてもう一言、付記しておきたい。 法隆寺などの古刹が創建以来、何度か解体を含む修理を経て今日に至っていることからもわかるように、木組みを主として構築される木造建造物は、解体・修理が可能である。そして、腐朽した部材の交換によって、新たな命が吹き込まれる。 しかし、近年の鉄筋コンクリートの建造物は、一度建てたら破壊されるまで、解体・修理などは不可能だ。古代日本の匠の智慧と経験によって実現した五重塔に代表される木造建築は、いわば永遠の命を吹き込まれた永続的な建造物なのである。 近年、人間の経済活動や社会活動の持続可能性を重視する「SDGs: Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」という概念が流行しているが、古代日本の匠たちは、1000年以上も前からそのような考え方に立脚していた。その思想の根幹をなす日本の文化・文明の本質が、「自然との永続的な調和」を志向する姿勢にあったからである。 ---------- 古代日本の超技術〈新装改訂版〉 古代世界の超技術〈改訂新版〉 ----------
志村 史夫(ノースカロライナ州立大学終身教授(Tenured Professor))
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