「宙吊りにするのが一番いいんです」…超高層建築に「ことごとく活かされている」古代日本の超技術
伝説の棟梁の証言
五重塔の耐震・耐風性を考えるうえで、もう一つ忘れてはならないのが、前述の「キャップ構造」である。五重塔は鉛筆のキャップ、あるいは帽子が順に重ねられたような通し柱のない構造をしており、建物全体は構造的につながってはいない。したがって、地震による横振動が上層に伝わりにくい。 西岡常一棟梁は、地震の際の五重塔の揺れについて、 ---------- 「法隆寺の金堂を調査しているときに地震がありまして、揺れましてん。塔、どないなるかとすぐ外へとんで出て見たんですわ。そしてじっと見ていたら、そりゃ器械ではかったわけやないからはっきりとはいえんけれども、初重がこう右に傾けば、二重が左に傾く。二重が左に傾けば、三重は右に傾く。たがいちがい、たがいちがいに波を打つようになった。各重がたがいに、反対に反対に動きよる。ということは中心は動いとらんわけでしょう。側だけが動いてる。ああいうので塔が地震には強いのじゃないかと思います。そしてあんまり大きなのが来たときには、心柱がこんどは止める役をしよるんです。とにかくビルでもこのごろは軟構造ということがいわれますけれども、もう千三百年前にちゃんと塔は、いまでいう軟構造にできてるということですわ。各重ごとにうまいこと動くようにできてますわ」 西岡常一・高田好胤・青山茂著、寺岡房雄写真『蘇る薬師寺西塔』(草思社、1981) ---------- というきわめて興味深いことを述べている。 五重塔の耐震性について、西岡棟梁の、この言葉以上の証言はないだろう。
科学的に立証された古代の匠の智慧と経験
1996年10月、奈良国立文化財研究所(現・独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所)などによる解析調査結果が、西岡棟梁の証言に数値的裏づけを与えた。法隆寺五重塔の基壇と各重の梁の上などに計16個の微動計を設置し、1000分の1~100分の1ミリメートルの“常時微動”を測定し、揺れの方向や振動数などを調べたのである。 塔本体は0.9ヘルツで水平に揺れながら、同時に2.5ヘルツの振動数で弓形にしなる動きをしていた。一方、基壇の振動数は2~5ヘルツで、基壇と塔本体の振動数に最大5倍以上の差があることになる。 つまり、振動周期の違いによって共振することなく、揺れる力を緩和し、分散させているのである。 五重塔が地震や大風に強いのは、心柱の「振り子作用」や「閂作用」、そして各重の「キャップ構造」によるものと考えて間違いないだろう。 古代の匠(たくみ)の智慧と経験には、つくづく畏敬の念を抱かざるを得ない。
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