「宙吊りにするのが一番いいんです」…超高層建築に「ことごとく活かされている」古代日本の超技術
200年後を見越した建築
木材は基本的に、乾燥すれば収縮する。また、荷重によって変形する。収縮や変形は木材の軸方向(繊維方向)では小さいが、繊維に直角の方向では大きい。つまり、木造の五重塔は建てられた後、完全に落ちつくまでの間に必ず縮み、変形するのである。 薬師寺西塔は1980年、約450年ぶりに再建されたが、塔の高さは東塔より33センチメートル高く、また屋根の反(そ)りも東塔に比べるとかなり偏平に造られている。西塔を建てた西岡常一棟梁によれば、およそ200年後に、西塔は東塔と同じ高さ、同じ形になるという。つまり、新しく建てられた西塔の木材は、およそ200年間にわたって変形し続けるわけだ。 ところが、繊維方向に伸び、塔の荷重を支えていない心柱の収縮・変形は、非常に小さいので、心柱が固定されていると、五重屋根との間には大きな隙間ができて、激しい雨漏りを招き、ひいては木材を腐らせる原因になる。これを防ぐには、心柱を持ち上げて下部を切り詰めるほかはないが(最初から心柱と五重屋根を接触させなければよいが、そうすると最初から雨漏りが起こることになる)、それは大変な作業である。 心柱が宙吊りになっていれば、前回の記事で掲載した図「青龍寺五重塔の宙吊り心柱」(c)に示したように、下部と礎石の間に隙間があるので問題ない。よしんば心柱が下降し、隙間が狭められても、心柱下部を切り詰めるのは簡単である。
高度の耐震性能を誇る心柱の「閂(かんぬき)作用」
話を五重塔の耐震・耐風性に戻す。 宙吊り心柱が五重塔の耐震・耐風性に果たす役割は、一種の「振り子作用」で説明できる。しかし、現存する五重塔の中で、宙吊り心柱をもつものはむしろ例外的であり、法隆寺五重塔をはじめ多くの塔は心礎、あるいは初重天井の上に立つ心柱をもっている。立つ心柱の耐震・耐風性は「振り子作用」では説明できない。どう考えればよいのか。 建築学者の石田修三氏は、図「振動実験模型の概念図」に示すような振動実験模型を作り、3つの型の心柱(b)~(d)が五重塔の耐震性に与える影響について調べた。****** その結果によれば、耐震性を示す一つの要素である“倒壊に要する地動速度”において、最も優れているのが(b)の貫通型(心礎の上に立つ)心柱であった。貫通型よりは劣るものの、(c)の梁上型(初重天井の上に立つ)心柱、(d)の懸垂型(宙吊り型)心柱は、心柱なしの(a)の場合に比べ、2倍以上の耐震性を示した。 いずれの型であれ、心柱が五重塔の耐震性向上に及ぼす効果が、実験的にはっきりと示された。しかも、圧倒的多数の五重塔に採用されている、心礎の上に立てられた貫通型心柱が耐震性において、最も有効であることが科学的に示されたのである。東京スカイツリーの心柱は、この貫通型である。 石田氏は、「心柱は、首振りを含め、一般に層変位の集中を抑制する」と結論し、五重塔の心柱はちょうど観音開きの扉を固定する閂(かんぬき)のようなはたらきをするので「心柱の閂作用(効果)」とよんでいる。そして、その「心柱の閂作用(効果)」が多重塔の高度の耐震性能を決定づける、という「心柱閂説」を提唱している。
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