高校物理で習う力学はじつは全部ウソ!?…「この世のものは全部波である」というかなり「ぶっ飛んだ」式
物理に挫折したあなたに――。 読み物形式で、納得! 感動! 興奮! あきらめるのはまだ早い。 大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。 【写真】 本記事では原子・分子編から、「波」についてくわしくみていきます。 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。
この世の物質は「波」である!
量子力学には、不確定性原理以外にも、常識では計り知れないものが多い。たとえば、フランスの物理学者ド・ブロイが、光子の粒子性と波動性を結びつけるために導入した概念である「ド・ブロイ波」(物質波ともいう)の関係式は、かなりぶっ飛んだものだ。 ---------- 波長=プランク定数/運動量 ---------- 何がどうぶっ飛んでいるのか。実は、この式は、「ある運動量で飛んでいる粒子は、どんなものであっても、上の式で与えられる波長の波でもある」というトンデモない式なのである。 この式はたとえば、ある速度で飛んでいる野球のボールも波動だ、という式なのである。しかし、どう考えても野球のボールは波には見えない。しかし、量子力学が正しければ、波でなくてはならないという。普通に考えたらとても理解できたものではない。 驚くべきことに、ド・ブロイ波の式だけならちゃんと高校物理の教科書に書かれている。そしてこの式から、量子力学で原子の構造がどう描写されているかを、理解するのはほんのあと一歩だけなのである。 量子力学によれば、この世のものは全部波動だということになる。波だから、『学び直し高校物理』波動編で学んだような、反射や偏光、屈折などの現象は一通り実現する。「でも、物体が屈折したところなんて見たことない」と言うかもしれないが、実はそんなことはなく、普通に毎日目にしている。 たとえば、『学び直し高校物理』力学編で登場した「斜方投射」。これは屈折で理解できる。屈折では波長が短いところから長いところに入ると、光が波長が短いほうに向かって曲がることを説明した。また、波長が連続的に変わっていると光の軌跡が曲線を描くことを学んだ。 斜方投射では上に上がるほど速度が遅くなって波長が長くなるので(ド・ブロイの式)、斜方投射の軌跡は、屈折で理解できる。僕らはこれを「重力が働いて曲がった」と思っているがそれは「錯覚」であり、本当は「この世の物質はみなド・ブロイ波で表現される波なので波長が変わると屈折する」ということにすぎない。 なんで毎日「屈折」を見ているのに僕らはそれが「屈折」だと気づかないのか、というとド・ブロイ波の波長がとても短いからだ。 プランク定数はとても小さな数なので運動量がよっぽど小さくないと(運動量、つまり、速さに反比例する)波長がとても短くなってしまうので波に見えないのだ。一方、屈折は波長の長さの比にしか関係しないからどんなに波長が短くても成り立つ。 現実の世界は量子力学にしたがっている。つまり、極論すれば、高校の物理で習う力学は嘘っぱちなのだ。それは生物が作り上げた偉大なる幻影、つじつま合わせに過ぎない。 それでも、量子力学の教えるところは、ほとんどの場合、高校物理の力学の結果と一致している。真実とはまったく違うにも関わらず、現実を非常にうまく記述する科学を作り上げた生物の脳には驚きを禁じ得ない。
田口 善弘(中央大学理工学部教授)