バスの運転士「補聴器を使用しています」 貼り紙に届いた42万の〝エール〟 「きっと大丈夫」
ランプの位置、無線…工夫の声が社内から
研修期間含め、寺井さんが実際にバス運転士として働いてみると、環境整備が必要なところもいくつも出てきたといいます。 また、降車ボタンが押された時に点灯する運転席のランプの位置です。 桑原さんによると、ランプは運転席に座った運転士の、視界の左隅にあります。 通常は「ピンポン」のチャイム音とランプの点灯で乗客の降車を確認しますが、チャイム音は車両の走行音や、周囲の音にかき消されてしまう時があります。そのため、寺井さんが使用する車両では、ランプの位置をより視界に入りやすい中央部にずらしたといいます。 次に、無線での連絡です。「無線は雑音が入り、聞き取りにくい」と寺井さんは言います。 営業所から無線で連絡をする運行管理者が、「ゆっくり・はっきり」話すよう努めましたが、それでも聞き取りにくいこともあったといいます。 この課題に対し、寺井さんからはスマホを携帯する提案がありましたが、「職場の規程上、許可できなかった」(桑原さん)。 そこで、携帯型IP無線機を準備しているといいます。IP無線機は通常の無線機よりクリアに音声が聞こえ、メッセージを送る機能もついていて、急ぎの連絡でなければ、終点にたどりついた後に文字で確認することもできるためです。 寺井さんが働きやすい環境にするための改善方法は「社員から自主的に声が上がるものがほとんどだった」と桑原さん。様々な職業を経験し、考え方も多様な人が多い職場だといいますが、「新しい仲間である寺井さんをサポートしようと、自然に声があがったのがとてもよかったなと思っています」。
「聴覚障害者もバス運転士できる」
独り立ちから1カ月ほどが過ぎようとしていますが、今のところトラブルはないという寺井さん。 桑原さんは「がんばっているし、うまくやっているなとホッとしています」と話します。 「投稿のコメントには『聞こえなかったら何回聞き直してもいいんだよ』といった温かい言葉もありました。そのような気持ちで見守っていただけていることに、安心しました」 寺井さんは「海外のお客さんから、わざわざ日本語で『ありがとう』と感謝を伝えてもらったりしたときにやりがいを感じる」そうで、聞き取れないことがあったときには何度か聞き返し、料金や目的地の案内ができているといいます。 「聴覚障害者でもバス運転士ができるということを多くの人に知ってほしい」という寺井さん。「バスで地域の足を支えたいです」と語ります。