虐待政策は科学的裏付けに基づいているか 統計に依拠せず受刑者データから読み解く(東京科学大学教授・黒田公美さん)
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鑑別所 統計に裏打ちされたツール活用し再非行防止
では、具体的に政策が科学的データに裏付けられた例にはどのようなものがあるのだろうか。少年鑑別において統計に基づいた政策が用いられていると聞き、鑑別所を訪ねた。
さいたま少年鑑別所はさいたま市浦和区に位置しており、おおむね12~20歳までの男女が入所している。少年鑑別所とは、少年院に送られるかどうかや保護観察などの家庭裁判所による審判の判断を待つ少年(男女含む)が約4週間入所する施設だ。その間に、職員である法務技官による面接や心理検査、行動観察、医師によって心身の健康確認が行われる。同所の統計では、令和5年度(2023年度)に入所した非行名で一番多いのは男子が傷害、女子が詐欺だった。
所内を案内してもらうと、入所時に衣類を着替える部屋や、運動場、面接室などがあった。「所内ではアクセサリーや化粧で飾ることはできない。素の状態の少年たちはあどけない印象がある」と職員は話す。ここでは、食事は隣のさいたま拘置支所から温かいものを運んでもらう。「1日3食決まったときに食事が出てくることは、例えば、ネグレクト(育児放棄)の家庭で育った少年にとっては大きな安心につながる」と聞き、筆者は「なるほど」と膝を打った。
法務省の少年矯正統計によれば、入所してくる少年の知能指数は平均的な一般の子に比べやや低い傾向にある。学歴も中学卒業や高校中退であることが比較的多く、学習面の困難さから「学校に行きにくい」といった問題も浮き彫りになった。加えて、ひとり親の家庭は約4割にのぼる。内閣府の男女共同参画白書令和6年版(2024年版)によると、子どもがいる家庭のうちひとり親家庭は2割程度とされる。
そのため、同所の職員は、「少年鑑別所に入所する少年と一般的な少年のデータを比べると課題が見えてくると思う。少年の再非行を防止し、健全な育成を期するためにはどういう対応が必要になるのか。それは学習支援なのか、生活指導なのか、家庭環境の調整なのかを考え、非行リスクも考慮した上で、鑑別判定や処遇指針について検討している」という。また、希望する入所者には外部講師による学習支援を行うこともある。