虐待政策は科学的裏付けに基づいているか 統計に依拠せず受刑者データから読み解く(東京科学大学教授・黒田公美さん)
鑑別入所した少年には「就学支援」政策が有効な可能性
―データを取り扱う中で、他に分かったことはありますか。
少年鑑別所に入所する未成年女子の過半数、男子では30%が虐待を受けているという統計があります。また彼らは知能に問題がなくても、入所しなかった子供に比べ中卒や高校中退が多く、低学歴に陥りやすい。このような「能力に見合わない低学歴」は、その子の問題というよりも、教育を支える家庭の機能が不十分であったために起こったと考えられます。
高卒未満の最終学歴は日本の若年成人では5パーセント未満で、就労の問題や低収入に陥りやすくなります。これらの問題が重なると、犯罪に至りやすくなります。そのため、男女を問わず、鑑別入所した少年たちには「教育支援(就学支援)」という政策が有効な可能性が高いです。矯正施設では就労支援は力を入れていますが、「高卒資格を得る」などの就学支援も効果があるのではないかと期待されます。
一方、虐待をする親の側にも男女差がある要因もあります。男性の重度子ども虐待のリスク要因として、「実父非同居」は女性より大きな影響がありました。母子家庭などが想定されます。しかしこれは母子家庭がいけないということでは決してありません。日本ではひとり親家庭の相対貧困率がOECD(経済協力開発機構)平均と比べかなり高いというデータがあります。ひとり親への支援が不足しているために、子どもの教育を十分支えることができず、将来的に子ども虐待に至るリスクが高まっているという経路が考えられます。
女性では、男性と比べDV(ドメステイックバイオレンス)被害を受けていることが大きなリスク要因となります。また子育てを誰も手伝ってくれない孤立も大きな影響を及ぼしていました。それなら、政策としては「子育てを孤立させない支援」という対人支援の対策をすれば効果が期待できます。
科学は正確な政策へのアシスト
ー科学的な裏付けがあったとしても、それが政策に届くには大変長い道のりです。
それは重要な課題です。そこで子ども虐待の文理融合研究では、家族法や少子化対策に関係する経済学の専門家にも声をかけてグループ研究をしています。私たちは基礎科学なので、政策決定というシュートは決められません。政策立案者や各種審議会のメンバーがシュートを決めることを、科学がよいパスを出すことでサポートしたいと考えています。家族関係で困っている人を自己責任にするのではなく、社会システムが支援することを科学でサポートしたいと思って、これからも研究していきたいです。