リヴァプール元主将が語る30年ぶりのリーグ制覇。「僕がトロフィーを空高く掲げ、チームが勝利の雄叫びを上げた」
9シーズンにわたって指揮をとった名将ユルゲン・クロップの退任により、ひとつの時代に終わりを告げたリヴァプール。本稿ではクロップとともに新たな黄金時代を築き上げたジョーダン・ヘンダーソンの自著『CAPTAIN ジョーダン・ヘンダーソン自伝』の抜粋を通して、主に2015-16シーズン以降にリヴァプールが歩んだ軌跡に焦点を当てて振り返る。今回は2019-20シーズンのイングランド・プレミアリーグの終盤戦、コロナ禍という史上最大の試練の中で勝ち取った30年ぶりのリーグ制覇について。 (文=ジョーダン・ヘンダーソン、訳=岩崎晋也、写真=代表撮影/ロイター/アフロ)
奇妙なマージーサイド・ダービー
あのエヴァートン戦は、イングランド国内では経験したことのないものだった。いつもは敵意にあふれた満員の観衆がいるのに、このときは無人で、フィールドのあらゆる音が聞こえてきた。僕はびっしりと埋まった、敵意むき出しのグディソン・パークの観衆が好きだ。リヴァプールの選手たちはそれを愛している。なくなってはじめて、どれほどそれを愛し、戦う動機としてきたかに気づかされた。全員がその状況に適応しなければならなかった。 試合は0対0で引き分けた。それ以前も、以後も、決してないだろう奇妙なマージーサイド・ダービーだった。静寂が支配していた。それは前に進むためには、避けられないものだったのだろう。両チームともそれを乗り越えなければならなかった。そのあとは、もう少しリラックスしてつぎの試合、本拠地でのクリスタル・パレス戦に臨むことができた。 あの晩のアンフィールドでは、強い感情が湧きあがってきた。ロックダウン前には、この試合は優勝を決めるかもしれない一戦に当たっていた。もし実現していたらと思うと、とてつもない雰囲気だったことが想像された。だから、空のスタジアムで「ユール・ネバー・ウォーク・アローン」が流れたとき、ここに足を運び、キックオフ前にこのチャントを聞くことを喜んだであろう観客のことを考えると、僕たちは心が動かされ、鼓舞された。その試合の僕たちは最高のプレーをした。 カウンタープレスは的確で、鋭く貪欲だった。僕たちはパレスを圧倒した。トレント(アレクサンダー・アーノルド)はすばらしいフリーキックを決めた。壁の上を越えるボールで、キーパーにはどうすることもできないシュートだった。 2点目は、ファビーニョの最高のスルーパスに走りこんだモー(モハメド・サラー)。ファビーニョはさらに、豪快な3点目を叩きこんだ。ついでモーがワンタッチですばらしいパスをサディオ(マネ)に通し、サディオがキーパーのウェイン・ヘネシーの手の届かないところに蹴りこんで4点目が入った。 スタジアムには観衆の声がなかった。テレビ放映のときは人工的な音声による声援が加えられたが、フィールドではそれまでとまるで異なる雰囲気だった。僕はペナルティエリアに選手が密集しているときにボレーを打ったが、ポストに跳ね返された。アンフィールドの揺れるほどの大観衆のなかでは、普通は気づくこともないような金属音が響いた。ゴールが入らなかったことが音でわかるほどだったが、結局は大きな違いではなかった。この試合とパフォーマンスで、優勝がまた一歩近づいた。