境界を超える実験音楽の祭典「モード」出演 ノルウェーのサックス奏者ベンディク・ギスケ インタビュー
音楽と視覚的要素を通したアイデンティティの表現
――音楽だけでなく、映像作品・ショー等でのインスタレーションのような空間演出やビジュアル表現においても、アバンギャルドな独自の美的感覚を発揮されています。創作の着想源は何ですか?
ギスケ:私はミュージシャンですが、音楽だけでなくその周辺要素を含めて表現したいと考えています。ファッションや動き、照明も含め、あくまで音楽的なアウトプットの周辺に視覚的要素を足しているという認識です。
創作の原動力は、私から見てこの世界に欠けているもの、存在しているのになかなか見えづらいものを、自分の表現によって埋めたい、具現化したいという思いです。
――ベンディクさんから見て「この世界に欠けている」ものとは?
ギスケ:今までさまざまな反抗的・対抗的な表現を享受してきましたが、その中でクィアな要素を含んだ表現をなかなか見つけられずにいました。だからこそ、自分の音楽表現やステージでのパフォーマンスにはクィア要素を織り込み、自分のアイデンティティーを表現したいと考えています。とはいえ、この10年間で社会のクィアカルチャーへの理解は進みましたし、サブカルチャー全般においても、テクノやハウスなどのダンスミュージックシーンにおいても、クィアの存在感は高まっているようにも感じます。
――22年には「ディオール(DIOR)」の 秋冬コレクションのランウェイにて“Cruising”(アルバム「Cracks」収録曲)がオープニングを飾り、ビッグメゾンの洗練されたショーに、あなたの音楽世界が新たな物語性を与えました。「モード」が当初から構想したように、音楽とファッションは密接な関係性を築いているように感じます。あなたにとってファッションとは?
ギスケ:私の作品がショーのオープニングという美しい瞬間に使われたのは光栄でした。自分の作品が元々の意図とは異なる文脈で使われ、別の表現に昇華されるのは、とても喜ばしいことです。