境界を超える実験音楽の祭典「モード」出演 ノルウェーのサックス奏者ベンディク・ギスケ インタビュー
また、アメリカ文化を背景に持つジャズや、そのルーツとしてのアフリカ音楽、そしてハウス・テクノ等の電子音楽には、ノルウェーの前史的な音楽に通底するテーマがあると思っています。それは「集合地点としての音楽」ということ――音楽を通して人々がつながり、人々がつながることでまた新たに音楽が生まれるということです。
――現在ベルリンを拠点とし、テクノミュージシャンのパヴェル・ミリャコフ(Pavel Milyakov)とのコラボレーション等も実現しました。自身の音楽と、電子音楽やダンスミュージックとの親和性についてはどう考えていますか?
ギスケ:直近ではベルリンのナイトクラブ「ベルグハイン」のレジデンスDJ、サム・バーカー(Sam Barker)とコラボレーションしました。彼は電子音楽の手法で作曲するアーティストです。
電子音楽との協奏自体に目新しさはありませんが、どんどん進化していくテクノロジーを自分のアコースティックな演奏に取り入れることで、新たに生まれる音や空間の可能性を探究したいです。
現在、ドイツでは思想の両極化が進んでいますが、電子音楽のシーンは、人々が価値観の違いを超えて一堂に会するエネルギーを生み出すことができると思います。
――ライブパフォーマンスをする上でのこだわりを教えてください。
ギスケ:ライブではループ等のエフェクターやサンプリングは使わず、マイクを使用したテクニックや反響によって生まれる音のみを使います。マイクの誕生によってビリー・ホリデイ(Billy Holiday)のささやくような歌い方が生まれたように、私もマイクを通すことでしか生まれない音を出したいんです。
音楽やパフォーマンスは、自らの経験を観客と共有することですが、私は観客の反応をコントロールしたり、誘導したりしたいとは思いません。自分が表現したいのはあくまで「空間」で、「真実」や具体的な何かを語りたいわけではない。空間を作り、そこにどんな形であれ、観客に関与してもらうことを重視しています。