境界を超える実験音楽の祭典「モード」出演 ノルウェーのサックス奏者ベンディク・ギスケ インタビュー
WWDでは、「モード」出演のため6月に初来日を果たしたエクスペリメンタル・サックス奏者のベンディク・ギスケ(Bendik Giske)にインタビューを敢行。たゆまぬ鍛錬に裏打ちされた身体性と、サックスの瞑想的な響きが生む没入感が共存する、特異な音楽世界を作り出すギスケに、深い洞察に支えられた創造性について話を聞いた。
価値観をまたぎ、人々をつなげるエネルギーを生む
「集合地点としての音楽」を目指して
――ギスケさんのサックス演奏のアプローチは身体性にフォーカスした、独自の音楽表現です。このような奏法にいたった経緯について聞かせてください。
ベンディク・ギスケ(以下、ギスケ):もともと幼少期からダンスの勉強をしていて、身体の動きを通してストーリーを伝えることに興味がありました。そのうちダンスそのものよりも楽器の演奏に身体的な動きを取り入れることで独自の表現を探求したいと考えるようになり、音楽の道に進むことに決めました。 通っていた音楽学校にはジャズとクラシックの2つのコースがあり、どちらも音楽理論や歴史、実技を学びますが、私はリズムと現代の音楽を中心としたコミュニティー形成について追究したかったので、ジャズを選びました。
楽器のテクニックや音楽的な知識はもちろん重要ですが、ジャズの真の特性は「対抗的な力」。つまり、常に何かの対立軸として存在することだと考えています。
――「対立軸として存在する」とは?
ギスケ:即興的なジャズは、スコアとして書かれた音楽への反抗であり、封建的なシステムの中で作られてきた西洋音楽の歴史に対峙することでもある。西洋音楽は中上流階級によって作られてきたものが大半ですが、ジャズは民衆の間で生まれ、音楽史では語られない歴史的背景を持っています。
ジャズは常に「新しさ」を探求し、即興演奏による主体的なストーリーテリングや、音楽を中心にしたコミュニティ構築を求めるもの。私がジャズにひかれるポイントはここにあります。