来年1月スタートの「つみたてNISA」考案の経緯と金融庁の本音とは?
「つみたてNISA」対象ファンドの多くはインデックス系 その裏にある運用会社の事情
「つみたてNISA」の対象ファンドは販売手数料ゼロのノーロード投信のみとしています。これは投資家が投信購入時に支払う、通常2~3.5%程度の販売手数料が販売会社である証券・銀行の大きな収益源となっており、“販売手数料獲得至上主義”があまりにも横行した実態に対する是正勧告と受け止められます。 また、分配金の頻繁な払い出しは長期資産形成を損なうとの観点から、毎月分配型投信は「つみたてNISA」の対象外となりました。日本の投資信託は特にリーマンショック以降、お年寄りの年金代わりの商品として毎月高分配型ファンド一辺倒に販売されてきた結果、売れ筋ファンドは毎月分配型に偏重してしまいました。そうした高い分配金ありきの売り方に対して、金融庁からのダメ出しの強い意志が反映されているわけです。 これらは既存金融業界の投信販売におけるビジネスモデルの全否定と言うに等しく、業界では当惑と同時にいくらなんでも厳し過ぎると水面下で反発と怨嗟の声が絶えません。しかし当局は、米国で最も投資家の資金を集めている投信残高上位10ファンドを事例に今回の「つみたてNISA」の条件に照らし合わせてみると米国では10本中8本が適合対象となると反証して示し、業界の反論を見事に封じ込めています。 とどめは、アクティブ系ファンドにおけるさらなる厳しい制約条件でありましょう。このスクリーニングの結果、国内に3000本以上あるアクティブファンドのうち、今回この制度で登録可能となった商品はわずか15本だけになりました。第1次認定を受ける投資信託は120本(うち6本はETF)と発表されましたが、アクティブ系ファンドは新設が認められないため、大手運用会社はインデックス系ファンドの新設で対応したことから、大半の商品がインデックス系ファンドとなりました。 インデックス系ファンドの場合は商品差別化が難しく、各社がコストで競争優位性を示さざるを得ません。インデックス系ファンドの低コスト競争が激化していますが、実は金融庁の憤りは日本のアクティブ系ファンドが目先の相場の値上がり期待を煽る特定テーマ型や、デリバティブを重ねた複雑な仕組みの高リスク商品で百花繚乱となっている現状にあり、真に運用会社の知見と経験に裏打ちされた運用力を競うべき本来のアクティブ運用がないがしろにされてきている業界へ、運用会社としての存在意義の再考を促しているのです。 「つみたてNISA」は確かにインデックス系ファンド主体で構成されていますが、一方で認定を受けた少数のアクティブ系ファンドは厳選された結果残った貴重な存在とも言えます。 こうした業界の裏事情と金融庁の本意を覗き見しつつ、「つみたてNISA」を私たち生活者の資産形成に最適な場と理解して、是非とも積極的に参加して欲しいと思います。 (セゾン投信株式会社 代表取締役 中野晴啓) セゾン投信株式会社代表取締役社長。1963年生まれ。87年クレディセゾン入社。セゾングループ内で投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用等を手がける。06年セゾン投信(株)を設立。公益財団法人セゾン文化財団理事。一般社団法人投資信託協会理事。全国各地で年間150回講演やセミナーを行っている。