年間100万円の国保料支払い、滞納による財産の差し押さえで生活困窮も――保険料を負担に感じたら知っておきたい「保険料をおさえるコツ」【書評】
フリーランスで働く人や、会社員を辞めていた期間がある人の中には、市町村の国民健康保険料が高いことに驚いたことがある人は少なくないのではないだろうか。このレビューを書いている筆者もそのひとり。年によって収入に差があるため、前年の収入をもとに計算された健康保険料が、納付年の収入の3割を占めることになり、困った経験がある。なぜこんなことが起こるのか。そして、それに対処する方法はないのか。そんな疑問に答えてくれるのが、本書『国民健康保険料が高すぎる!-保険料を下げる10のこと(中公新書ラクレ)』(笹井恵里子/中央公論新社)だ。
本書は、医療や健保制度について積極的に取材・執筆してきたジャーナリストの笹井恵里子氏が、市町村の国民健康保険に加入する人や、退職が迫る会社員に向けて書いた本。国保の問題に取り組んできた専門家やファイナンシャルプランナー、自治体職員、弁護士などへの取材と調査をもとに、国民健康保険の仕組みや、保険料を下げる方法をまとめている。都道府県と市町村が運営する国民健康保険は、企業に所属しないで働く人や、定年退職後の人、所得がない人などが加入する健康保険。企業が保険料を負担する健保組合に比べて個人負担額が高いことが多く、健康診断などのサービス水準が低いのも特徴だ。 本書ではまず、国民健康保険の特徴や仕組みを解説。保険料の根拠や、中所得層の個人事業主など保険料の負担が増えがちなケースと、その理由も伝えている。さらに、国民健康保険という制度の限界や、保険料支払いに困窮する事例、保険料滞納によって発生した脱法的な財産や不動産の差し押さえの事例など、課題の側面も紹介。それらを伝える専門家の言葉がリアルで、「国民皆保険制度」に基づく当然の仕組みと受け入れていた国保は、実は私たちひとりひとりが真剣に向き合わなければいけない問題であるのだという、当事者意識を抱かせる。 しかし本書でもっとも注目すべきは、国民健康保険料の抑え方を具体的に解説しているパートだ。無職の人や低所得者向けの「軽減」「減免」制度のほか、世帯を分離することで保険料を抑える方法や、また個人事業主には、職種別の健康保険組合に加入する方法もある。所得に左右されない「定額保険料」を設定している組合に入れば、所得が高いほど、年収で保険料が決まる市町村の健保より保険料が抑えられるケースが多い。また、パートやアルバイトでも条件を満たせば社会保険の加入対象になるため、パート勤務で保険料負担が半額で済む企業の社会保険に加入しつつ、自分の事業で稼ぐという働き方もできるという。健康保険に関する選択肢を、メリット・デメリットから金額の計算方法まで丁寧に伝えているため、「健保は入らなければいけないもの」程度の知識の読者にとっては目から鱗の連続だろう。 フリーランスで仕事を始めて間もなかったり、急に会社を辞めることになったりすると、自分は市町村の健保に入るしかないと思い込んでいるケースも多い。他の選択肢や保険料支払いに困ったときの対処法があることは、自分から情報を取りに行かなければ誰も教えてくれない。だからこそ、メリデメや使えるハックまで、国民健康保険に関する情報が1冊にまとまったこの本は貴重だ。また本書には、個人事業主向けの節税対策や、病気予防の観点から考える健診への向き合い方や健康法など、健保ネタ以外にも、仕事や暮らしに役立つ情報ができる限り盛り込まれている。 この1冊が、重い社会保険料や税金の負担に耐えながら一生懸命働く同志に対する著者の渾身のエールのようで、胸が熱くなった。とはいえ、会社で働く人やお金の管理はばっちりという人でも、健康保険料の通知を見て一度でも「ん?」と思ったことがあるのなら、本書を手に取ってほしい。自分の健康や医療、お金に関する新しい視点や気付きが得られるはずだ。 文=川辺美希