なぜ村田諒太はTKO勝利の後に「リアルな相手と戦いたい」とサプライズ発言をしたのか?
ボクシングのトリプル世界戦が23日、横浜アリーナで行われ、WBA世界ミドル級王者の村田諒太(33、帝拳)が同級8位のスティーブン・バトラー(24、カナダ)を5ラウンド2分45秒に怒涛の右ストレート5連打から左フックで倒しTKO勝利で初防衛に成功した。リング上で「リアルな相手とやりたい」とマイクパフォーマンス。帝拳と共同プロモートをしているトップランク社のCEO、ボブ・アラム氏は来年の東京五輪前に東京ドームで、ミドル級の2人の巨星、WBA世界同級スーパー、WBC同級フランチャイズ王者のサウル”カネロ”アルバレス(メキシコ)、IBF世界同級王者、ゲンナジ―・ゴロフキン(カザフスタン)とのビッグマッチ実現に動き出す考えを明らかにした。
仏教に通じる呼吸法で冷静に
怒涛の右ストレートラッシュだった。1発、2発、3発……4発、5発と、続けざまに打ち下ろすと、バトラーがよろけてロープに下がり、体が傾いたところへショートの左フック。挑戦者がドタっとコーナーに崩れ落ちると、レフェリーはカウントを数えることなく試合を止めた。バトラーは、コーナーに体を預けたまま、しばらく動けず、村田がマイクパフォーマンスをする間も、まだ控室へ戻ることができずに椅子に座ってうなだれていた。村田が与えた衝撃の強さを表していた。 「一発の怖さがあった。最後の最後。バトラーが倒れるまで勝利の確信は持てなかった。でもやっと自分のボクシングスタイルは確立できたと思う」 村田はリングを飛び跳ねながら回って勝利のダンス。 「虚勢をはらず、考えすぎず。あるがままの自分で」 そういう気の持ち方で、この試合に挑んだ村田は、ニコリとも笑わずに入場し、そして、最後は踊って締めた。 試合前の控室。パンチが自分でも怖いほどキレていたという。 「調子が良すぎるほど良かった。ぱっと終わるんじゃないか」 2ラウンドで終わらせたブラント戦の再現。その色気が序盤の力みに変わる。しかも、バトラーは予想に反して足をとめて村田のプレスに下がらない意思を示した。 「もっと足を使うと思った」 村田は重心をしっかりと落とし、プレスをかけ右のストレート、オーバーフックを思い切り叩き込む。だが、狙いすぎた。ラウンドの終盤には反撃され、バトラーの右や、左のダブルに受け身になり、珍しく下がるシーンも。ジャッジの一人はバトラーを支持した。 「思ったよりパンチがあるなと。ジャブも右もボディストレートも強い。びっくりしました。いいものを持っている。パンチが硬いんです。さすがWBOの1位。強い相手でした」 2ラウンドもバトラーは上下に打ち分け応戦してきた。だが、終了間際に村田の右ストレートが顔面をとらえてバトラーが大きく下がった。 「2ラウンドの最後にふらついた。右が当たるなという気がした」 本田明彦会長からアドバイスが飛ぶ。 「冷静に。はじめだけだから」 3ラウンドはジャブからボクシングを組み立て直した。 「いい試合をしたい。いいところを見せたい」という気負いを静めるため、あえて呼吸方法を変えたという。勉強家の村田が熟読している「仏教の教え」にあるメンタルコントロールの方法だった。終了間際、右ストレートを続けざまに放つとバトラーはクリンチに逃げた。 「疲れてきたな」 バトラーの消耗を感じ取った。 4ラウンドには、右のボディを横殴りに続けて打った。外から強引に振る右フックと右ストレートの波状攻撃に、たまらずバトラーはまたクリンチに。だが、戦前、弱点とされていたボディ攻撃には耐えていた。 「バトラーは、当日、79キロ(リミットから約7キロプラス)もあった。体を作ってきた。(あれだけ打たれて)あきらめてもいいところだが、ビッグチャンスをつかみたいという舞台。若いし気持ちが入っていたんでしょう」 逆に村田は打ち終わりに右のカウンターをもらい左目の上をどす黒く腫らした。村田曰くダメージには「ガクンと効くダメージ。目を腫らされる嫌なダメージ」の数種類があり、今回は後者だった。村田は、フィニッシュの5ラウンドに超攻撃的な自分のボクシングを取り戻しバトラーの心をへし折った。世界の上位ランカーとのレベルの差を証明するような勝ち方だった。。