合格率3%! 女子ゴルフ最終プロテスト「運命の4日目」スターの卵たちの「汗と涙のサバイバル」
運命の4日間
女子ゴルフの最終プロテストには、二種の涙がある。幼少の頃からクラブを握ってきて、夢に描いたプロになることができた喜びの涙、そして努力が「合格」という形で報われなかった絶望の涙だ。 【画像】女子ゴルフ最終プロテストに人生をかけた スターの卵たち「素顔写真」 毎年、プロテストの合格率は3%あまり。今年は695人が参加し、そのうち105人が4日間にわたって行われる最終テストに残った。合格のラインは20位タイだ。その最終日――。 高校時代はナショナルチームの一員として過ごすなどエリートアマだった六車日那乃(むぐるまひなの)(22)は、18番を迎えた時点で通算3オーバーでボーダーラインに立っていた。最終ホールをパーでしのげば、5度目の挑戦にして悲願の合格となる。しかし、六車はボギーを叩いてしまう。 「その瞬間は″終わってしまった、また1年無駄にしちゃった″と思いました」 運命は六車に味方した。彼女がスコアを落としたことでボーダーラインまで4オーバーに下がり、六車は合格圏内のまま19位タイでホールアウトしたのだ。ドキドキしながら最終組を待ち、合格が確定したあと報道陣の前に姿を現すなり、六車は言葉を詰まらせた。 「泣いちゃっていいのかな……’20年に初めてプロテストに落ちた時はクラブを振るのが怖くなった。そこから普通に打てるようになるまで、大変だったんです。何度も気持ちが折れそうになりましたが、続けてきて本当に良かった」 プロテストでは選手以外の家族やコーチは、会場となる大洗ゴルフ倶楽部(茨城県)のコースどころか、クラブハウスにさえ入ることが許されていない。エントランスの扉が、緊張感に包まれたプロテストの現場と日常の境界線となる。7位タイでフィニッシュしたあと、真っ先にクラブハウスを飛び出し、駐車場で待っている母親に飛び付いたのが中村心(こころ)(19)だった。昨年は日本ジュニアを制し、女子のメジャー大会である日本女子オープンではローアマ(最上位アマチュア選手)に輝いた。だが、秋のプロテストでは不合格。師匠である中嶋常幸から活を入れられながら臨んだ4日間だった。 「両親と、高校時代の顧問の先生も駆けつけてくれていました。とても喜んでくれて、ずっと私、号泣していました」 3日目に「66」のビッグスコアを出し、5位に浮上した中村は、ボーダーまで6打の余裕をもって最終日に突入した。 「余裕はあったんですけど、なんか緊張して、身体がぜんぜん動きませんでした。去年、同い年の子がプロになり、活躍しているのを見て悔しい思いをしていました。ただ、受からなかったからこそ、今年4月の『オーガスタ女子アマ』に出場することができた。けっして悪いことばかりではありませんでした」 合格者が持つボードに書かれた名前は『COCORO』の表記。『KOKORO』ではないところが彼女のこだわりだ。 「KOだとノックアウトみたいじゃないですか(笑)。本当はパスポートの表記もそうしたいんですけど、5歳の時に作って以来、変更ができないらしいんです」 大きな飛躍が期待される19歳だ。 クラブハウスの外に広がるのは笑顔ばかりではない。早稲田大学在学中の松山りな(19)は、3日目を終えて4オーバーと微妙な位置に立ち、最終日もスコアを落として合格ラインにはわずか1打足らず。エントランス脇のベンチに座り込み、身体を震わせていた。とても近づける雰囲気ではなく、彼女が落ち着くのを見守ることしかできなかった。 ◆登場曲は長渕剛 また、18歳という若さながら3日目まで上位につけていた左奈々(ひだりなな)(18)は、最終日に6オーバーの大叩き。不合格となり、同じように目を赤くした仲間とクラブハウスを後にしようとしていた。扉の前で声をかけると、一瞬、ムッとした表情を見せた彼女はこう話した。 「最後らへんにすごくプレッシャーを感じちゃって……来年、絶対に受かるように頑張るだけです」 4オーバーでホールアウトし、落選したと勘違いして一度はクラブハウスを後にしたのが古家翔香(ふるやしょうか)(24)。合格が決まり、慌てて戻ってきた彼女は、「本当に地獄から天国に来たみたい」と破顔し、悔し涙がいつしか嬉し涙に変わっていた。古家と同スコアで、クラブハウスで待機していた青木香奈子(24)も同じ気持ちだろう。すでにインスタのフォロワー4.5万人を誇る彼女は、プロの舞台で人気に見合う活躍ができるか。そして、米ツアーを戦う吉田優利の妹・吉田鈴(りん)(20)も、19位タイで姉が待ち望んでいた報告ができた。吉田は言う。 「もうプロテストを受けなくていいんだという解放感がある。ゴルフ界、女子ツアーを盛り上げられる一員になりたい」 そう話した吉田はこの夜、嬉しすぎて一睡もできなかったという。 昨年のプロテストでは愛知・誉(ほまれ)高校3年だった清本美波がトップ合格を果たし、ニューヒロインの誕生にゴルフ界が沸いた。今年のトップ合格は3度目の挑戦となる寺岡沙弥香(22)だった。 「2年前のプロテストは7番ホールでロストボールしてしまい、″人生長いからこういうこともある″と開き直れたんですけど、去年は(不合格が)ショックすぎて、2週間寝込みました。今後は小中学生が憧れの選手として私の名前を挙げてくれるようなプロになりたい」 寺岡に続く2位タイで合格したのが、今年4月にアマチュアながらプロの下部ツアーで優勝した都玲華(みやこれいか)(20)だ。3日目を終えて好位置に付けるとこうおどけた。 「4度目ですし、私はもうベテランみたいなもの(笑)。緊張はありません」 最終テストを前に1ヵ月間の「禁酒」を自身に課し、テスト会場の大洗ゴルフ倶楽部に向かう車内では、大好きだという長渕剛の『しゃぼん玉』をかけた。 「父から『お前の登場曲だ』と言われて。好スコアにちょっとはつながったのかな。上手なだけじゃなく、強いプロゴルファーになりたいです」 男子とは違い、活況を極める百花繚乱の女子ゴルフ界にあって、今年は19位タイまでに入った26人が合格を果たした。が、彼女たちはプロに認定されただけで、ツアーの出場資格は得られていない。真のサバイバルレースはこれからである。 『FRIDAY』2024年11月22・29日合併号より 取材・文:柳川悠二(ノンフィクションライター)
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