最頻出ワード「激戦州」ディープ解説。勝敗のカギを握る有権者はたった5万人?
こうして近年では、両陣営が莫大な資金をデータ収集・分析、ターゲティング広告、戸別訪問に投入。その結果、1996年に50%程度だった大統領選の投票率は、2020年にはなんと66%まで上昇している。 ■「移民が犬を食べた」トンデモ発言の意味 ただし、この投票率の大幅上昇は、政治意識が高い人が増えたことを意味しているとは限らないという。 「アメリカでは、政治意識が高い人はほぼ支持政党が決まっており、無党派層の大半は政治や社会問題について深く考えない"無関心層"です。この層に半ば無理やり投票させる技術や戦術が発達したことで投票率が上がったわけですが、それは接戦になればなるほど、無関心層が勝敗を決する存在になってしまうことを意味します。 そう考えると、トランプの"謎の言動"にも理由があることがわかります。ハイチ移民がペットの犬や猫を食べたとか、ハリスは突然黒人になったとか、物事をよく知っている人からすると『何を言ってるんだ』という話ではありますが、共和党寄りの無関心層"にはそれなりに刺さる可能性がある内容なのです」 もちろんこれは、程度の差こそあれ民主党側にも言えることだ。前出の西山氏が言う。 「ハリスは銃規制強化に賛成の立場ですが、最近はスピーチの中で、『まあ、私も銃を持っているけど』という話をさらっと入れ込むことがあります。これは例えばペンシルベニアの郊外地域などで、治安問題、特に子供の安全に強い関心を持っている母親層を安心させるメッセージになっています」 では、この先、両陣営の動員はどこがポイントになるのか。西山氏が続ける。 「ここから先は、陣営の盛り上がりや熱が重要です。その点でハリスのほうが少し有利だといわれているのは、共和党側の動員で最も重要な役割を果たすキリスト教右派の人たちの盛り上がりが、やや弱めだとみられているからです。 ただ逆に、これから世論調査やブックメーカーのオッズなどでハリス有利の数字が出続けると、民主党側にも不安要素が出てきます。 民主党支持層のうち経済左派といわれる層はハリスを積極的には支持しておらず、『どうせ勝てるなら自分はわざわざ投票しない』という流れが生まれかねない。一方で、劣勢が伝えられればトランプ支持者たちはこぞって投票に行くからです。これは16年の大統領選でヒラリーに起きたことです」 やはり、最後の最後までわからない戦いになりそうだ。前出の前嶋氏はこう言う。 「これからどちらかの陣営に強い"風"が吹いて差がつくことは考えにくい。フロリダ州での再集計の結果、わずか537票差で決着した2000年の大統領選と同じくらいの接戦になる可能性もあります。20年は投票日の4日後に勝敗が決しましたが、今年は開票にもっと時間がかかるかもしれません」 これから1ヵ月少々の間、世界の目が7つの激戦州に注がれることになる。 写真/時事通信社