最頻出ワード「激戦州」ディープ解説。勝敗のカギを握る有権者はたった5万人?
さらに言えば、激戦州の中でも基本的に都市部は民主党、農村部は共和党が優勢で、そこは大きく揺るぎません。両陣営が特に力を入れるのは、その間にある郊外地域。そこでひとりひとりの有権者への戸別訪問という"地上戦"や、個人を狙ったターゲティング広告で、どれだけ票を掘り起こせるかが問われるのです」 ■クレカの履歴や過去の投票も丸裸に その選挙戦の基礎となるのは、極めて詳細な有権者の個人データだ。現代アメリカ政治・外交が専門の上智大学教授・前嶋和弘氏が解説する。 「メディアなどではよく、激戦州の無党派層の有権者50万人の動向で勝負が決まるといわれます。しかし先日、民主党陣営の関係者は『実際には5万人程度だ』と言っていました。それほど詳細なレベルで、狙うべき有権者を割り出しているということです。 例えば、ある州の有権者Aさんについて。当然、居住地からある程度の『属性』がわかりますし、SNSの書き込みやブローカーから購入できるクレジットヒストリー(カードの支払い履歴)なども合わせると、かなり詳細な情報がわかります。 所得水準や職歴、家族構成や離婚歴の有無、家庭は円満かどうか、どんな雑誌を読んでいるか、趣味は何か......。それらの情報を基に、ラップが好きだから黒人の可能性が高いとか、銃規制反対の書き込みをしているから共和党に投票する可能性があるとか、あらゆる方向から属性を絞り込んでいくわけです」 当然、その属性に応じて、戸別訪問で伝えるメッセージも変わる。例えばある家では「このままでは人工妊娠中絶が全米で合法になってしまう」、別の家では「不法移民を止めるのはトランプしかいない」、といった具合だ。 「もうひとつ重要なのが過去の投票動向です。直近5回の選挙で一度も投票していないなら、戸別訪問してもムダでしょう。逆に5回ともすべて同じ党に投票している人にも、いまさら働きかける意味はありません。重点的に狙うのは、5回のうち1回だけ投票に行ったような人たちです。 こうして有権者個人の属性を割り出していくマイクロターゲティングの手法は、2012年頃までに民主党がある程度完成させ、同年の大統領選で大きな成果を上げました。 アメリカの面積は日本の26倍もあり、やみくもに戸別訪問をしてもキリがないのですが、この手法によって相当効率的な票の掘り起こしが可能になったのです。 一方、後れを取っていた共和党も、16年の大統領選ではあのケンブリッジ・アナリティカ(後にロシアの選挙介入に関連していた疑惑が浮上した選挙コンサルティング会社)を起用するなどして巻き返しました。 例えば激戦州のペンシルベニアでは、黒人有権者を狙い撃ちして『(16年の民主党候補の)ヒラリー・クリントンは黒人のために何もしてこなかった』というターゲティング広告を打ち、効果を上げたといわれています」