現代人の暮らしが”バグ”る「虫村(バグソン)」に行ってみた! 不動産×テクノロジーの第一人者が、山奥に貨幣経済外の集落をつくる理由って? 神奈川県相模原市・藤野
主屋は「家らしくない家」。家族のあり方を問う仕掛けに
また、すでに完成している自邸も、家らしくないプランで完成しています。 「虫村全体で、設計をお願いしたのが、『ツクルバ』のときのスタートアップメンバーが立ち上げた 『ツバメアーキテクツ』です。依頼したのは、家らしくない家にしてほしい、ということ。よくあるLDKプラス部屋、ではなく、バーカウンターやスキップフロアがあったり、家ではない感じを出してほしいとお願いしました。施主というよりも、ともに設計をした感じですね。純粋な施主というのは妻でしょうか。家事の負担を軽減するために食洗機と乾太くん(衣類用乾燥機)がほしいといわれました(笑)」
廊下と居室スペース。左右に4室があります将来は滞在場所などにも使える。
中村さんのお仕事スペース。窓からは四季折々の風景が広がります。
瞑想するための部屋。ここだけ別の空気が流れていて、修行僧の気分になれます。中村さんのアートコレクションを飾るギャラリーでもあります。
今、住まいは「●LDK」という形で表記され、取引されていますが、この箱のカタチが、私たちの暮らしのかたちや家族のかたちを規定している気がします。実は血縁関係で暮らさなくてもいいし、家族だって入れ替わっていい。旅人や客人が来て一緒に暮らすことだってあるかもしれない。そう考えた中村さんは、パブリックとプライベートを分けた「家らしくない家」という空間設計にしています。そう、こちらの「主屋」も今の価値感をゆさぶるプランになっているのです。
今回、取材チームは、ゆるオフグリットが体験できる「HANARE」に1泊させてもらいましたが、そこで筆者に生まれたバグは、「山への関心」でした。数時間ではありますが、滞在、虫村の周辺をドライブしてみると、杉林が素人目にみても荒れていることに気が付いたからです。藤野や津久井の山には、戦後、神奈川の水源を守るために杉が植林されたものの、急峻な土地ということもあり、適切に手が入っていないのだという話を聞いていましたが、目の当たりにすると衝撃ではあります。「水の恵みはココからきているのに、知らずにいたのだな」という己の傲慢さと驚き。木1本育てることのできない自分に何ができるのかと言われればそれまでなのですが、まさかの感情と関心に、自分でもびっくりし、「まさにバグ」でした。 虫村や里山にまだ何も返せていない状態ではありますが、筆者が「もう一度行きたい」「藤野の関心がある」と感じているのは事実です。こうした関心を持ち続けるだけでも、虫村の存在意義は確かにあることでしょう。「プライスのない体験をする」「一度、資本主義経済圏を出てみる」などは極端ではありますが、誰もが日常で「違和感」を感じる瞬間はあるはず。こうした違和感=バグこそが、もしかしたら、明日の暮らしを考える小さなきっかけになるかもしれません。 ●取材協力 虫村村長・中村真広さん
嘉屋 恭子
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