「トランプ外交」が生み出す対立と緊張 2019年国際ニュース振り返り
(8)INF全廃条約の失効
12月12日、アメリカ国防総省は地上配備型の中距離弾道ミサイルの発射実験に成功したと発表。これはソビエト連邦との間で1987年に結ばれた中距離核戦力(INF)全廃条約で禁止されていた射程のものです。 冷戦が終結に向かいつつあった当時、米ソは緊張緩和の一環として、戦術的に最も重要度の低い射程500~5500キロの中距離弾道ミサイルを全廃することで合意しました。しかし、トランプ大統領は「ロシアが条約に違反している」と主張。さらに、INF全廃条約に未加盟で、中距離弾道ミサイルの開発・配備を進める中国を念頭に、米ロだけではない多国間の枠組みの創設を提案した上で、INF全廃条約については2月にロシアへ離脱を通告しました。これを受けてロシアも履行を停止した結果、同条約は8月に失効したのです。 冒頭で述べた中距離弾道ミサイルの発射実験を受け、中ロは反発を強めています。冷戦終結の一つのシンボルだったINF全廃条約の失効は、新たな緊張の高まりを象徴するのです。
(9)NZモスク銃撃テロの衝撃
3月15日、ニュージーランドのクライストチャーチで白人がモスクを襲撃し、49人を殺害。ニュージーランド史上最悪の惨事となりました。 実行犯ブレントン・タラント被告は犯行直前、SNSに「外国人によって白人世界の文化が脅かされている」と書き込んでいました。こうした主張は移民や外国人への反感が広がる欧米諸国で増えており、白人至上主義と呼ばれます。タラント被告は被害者を銃殺する様子を動画で撮影して配信しましたが、これは他の白人至上主義者へのメッセージにもなっていると考えられます。 一方、この事件はイスラム世界にも大きな衝撃を与えました。4月21日、スリランカの高級ホテルで欧米の観光客を含む300人以上が殺害されたテロ事件では、ISが犯行声明を出しましたが、その理由の中には「クライストチャーチへの報復」もありました。クライストチャーチ事件は白人至上主義の高まりとともに、イスラム過激派との報復の連鎖をも浮き彫りにしたといえます。