「トランプ外交」が生み出す対立と緊張 2019年国際ニュース振り返り
2019年も「トランプ外交」が世界にさまざまな波紋を広げていった感があります。国際政治学者の六辻彰二氏に今年の十大ニュースを選んでもらいました。 【写真】「米朝」「米中」で世界が揺れた2018年 国際ニュースを振り返る
(1)21世紀の覇権争い「米中対立」
6月29日、大阪でのG20(20か国・地域)首脳会合に出席するために来日していた米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が会談。悪化する一方の米中間の貿易摩擦について交渉を進めることで合意しました。
しかし、その後も米中間の対立はエスカレートし、9月にアメリカ政府はロシア製兵器の購入やイラン産原油の輸入を理由に対中制裁を追加しました。これに対して、中国も基本的には応戦の構えを崩さず、10月には世界貿易機関(WTO)に24億ドル相当のアメリカ製品向けの関税引き上げを認めるように要請し、WTOもこれを認めました。 アメリカと中国の攻防は、ただ貿易や経済をめぐる対立ではありません。台頭する中国がアメリカ主導の秩序に対する挑戦者になったことに、アメリカで危機感が高まった結果といえます。そのため、アメリカによる中国への封じ込めは、先述の安全保障に関連する分野、さらには中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)製品の規制など技術革新の分野、香港デモや新疆ウイグル自治区での人権問題など、幅広い領域に及びます。 ただし、貿易規制の応酬による悪影響は、中国だけでなくアメリカでも表面化し始めています。各産業の好況感を示すサプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数は9月には好景気の分かれ目といわれる50を下回り、非製造業景況感指数も2016年8月以来の低水準である52.6にまで下落しました。12月13日にアメリカが知的財産権の保護などと引き換えに、関税の追加引き上げの見送りなどで中国と合意したことは、これ以上の景気悪化を避けるためとみられます。 とはいえ、世界の主導権を奪われることへのアメリカの危機感はぬぐい難く、これに来年秋の大統領選挙を控えて「強いリーダー」を演出したいトランプ大統領の思惑も加わることで、両国の貿易戦争は今後も続くとみられます。