人工林の多様性を左右する除伐・つる切、悩ましいつるの二面性〈材質低下・労働災害と民芸品材料・花や葉の自然美〉
害だけではないつるの二面性
ところで、造林サイドから見るとつる類は敵なのだが、つるには山村の生活に役立つものが多い。 ヤマブドウの実は酸味が強いが、クマやシカなどの野生動物の大好物である。最近ではジュースやジャム、ワインにも加工される。また、樹皮は手編みの籠などの材料として最高で、数十万円もする高級品がデパートでふつうに売られている。 日当たりのよい若齢造林地によく発生するが、近年は造林面積が少ないことから、入手しにくくなっている。ヤマブドウを採取するために造林木を伐り倒す悪質な人もいるから、世も末だ。 マタタビは、林道を走っているとよく見かける葉裏の白いつるである。果実を焼酎に漬ければ薬用酒になる。これを飲むと「また旅にでる」ぐらい元気になるとか。特に虫こぶで変形したものが珍重される。また、「ネコにマタタビ」と言われるぐらい、このつるのすべての部分がネコを陶酔させる。
フジは、初夏に薄紫の花を咲かせ、モノトーンの人工林でよいアクセントとなって美しい。ところが林業にとってはこれも大敵である。 つる切を怠った手入れ不足の証拠みたいなものだったが、森林所有者の関心が山から離れると、伸び放題で太くなり、造林木を巻き殺したり、絡みつかれた複数の木が強風でまとめて倒されたりする。 風害の場合は、林地から根こそぎ引き抜かれた状態になるので、土砂流出への懸念が強まる。美しい藤の花は、実は林業衰退への警鐘なのである。 ツルアジサイもよく見かける。初夏にガクアジサイに似た白い花を咲かせ、樹木の幹が夏の装いとなる。 写真はないがツヅラフジというのもある。毎年国有林から有料で採取しているおばさんがいた。かつては葛籠(つづら)の材料となったようであるが、今では竹でつくるそうだ。 そのおばさんは、土瓶のつるに加工するのだという。思えば国有林は不思議なものも売っていた。量の把握と値段の算定はどうしたのか、まったく忘れてしまった。 つる切りを忘れた壮齢人工林に小学生を野外授業で連れて行った。太くなったつるの根元を切って、つるブランコを作ると、子どもたちはつるにぶら下がって、ターザンになった。手入れの遅れも、またよきかな。自然の営みは創造力を養う。