人工林の多様性を左右する除伐・つる切、悩ましいつるの二面性〈材質低下・労働災害と民芸品材料・花や葉の自然美〉
脱除伐への挑戦
除伐作業を省略するとどうなるかという現場ベースの研究も行われた。かつての独立採算制下での国有林では、造林作業における省力化は重要課題であった。 最近のように補助金をもらうための作業になると出来形が仕様書どおりでなければならず画一的になってしまう。補助金のために造林作業本来の自由度の高い精神が失われてしまうのが嘆かわしい。 除伐を省略すると、副次的にいいことがあった。雑木に邪魔されて、造林木の根元に近い方の枝を伸ばすことができず、枯れ上がるのだ。枝打ち作業と同じ効果が得られるのである。 ちなみに植物学者の牧野富太郎の有名な言葉に、世の中に雑草という植物はない、というのがある。至言である。 筆者もここでは雑草木などと造林木の立場から見た表現を使っているが、本当は心苦しい。自給自足に近い山村生活では、あらゆる草本、木本には有効な使い途があって、すべて無駄にすることはなかったのである。そのことを心にとめて作業すると、さらに造林作業に楽しみが増えるだろう。 こうして見ると、下刈・除伐に限らず造林作業の要諦は、いかに手抜きをするかにあるのだ。目の前にぶら下がった補助金ばかり追い求めていると、技術の発展や自然界に働きかける創造性を見失ってしまう。
つる切
造林でもう一つ重要な作業となっているのがつる切である。つる類は、造林木の大敵である。つるが樹木の先である梢に達すると、まっすぐ伸びようとする梢を変形させ、曲がりや二股など樹幹の変形を引き起こす。樹幹に絡みつくと締めつけられて、樹幹がねじのようにへこむ。 さらに樹冠部(樹木の枝葉が集まった部分)で複数の樹木に絡みついたつるは、風害や雪害の発生時にそれらの木々をいっしょに引っ張って倒してしまう。後で述べるが、労働災害の原因にもなる。 そこでつる切という一見地味な作業が不可欠となる。つるは局所的に点々と発生することが多いので、遠方から造林地を見て、造林木に絡みついたつるを見つけて、林内をはい回ってその個所を探す。これはなかなか大変な作業である。だいたいつる切は、下刈と除伐の間の期間に行うことが多いが、見逃しも多いので、随時行うことになる。