彼に感じたのは、怒りや憎しみよりも哀れみ――記者会見での性加害告発から4か月、カウアン・オカモトが語る自身のルーツと生き方
もうひとつ大きな影響を受けたのがアニメの『NARUTO-ナルト-』だ。 「めっちゃ救われましたね」 主人公のナルトは「九尾の妖狐」という化け物をその身に宿すため、周囲から嫌われてしまう。そこが自分と重なった。主題歌を口ずさむようになった。 「ナルトは常に孤独と向き合っていた。でも彼は人を憎むのではなく、愛をもって接していたんです」 彼の生い立ちや生き方に、勇気と、それに人生の目標をもらった。 「ナルトはまわりに認められようと火影になるって言うじゃないですか。それが僕の場合はアーティストだったんです」
こうして、エンターテインメントの世界を目指すようなる。母のアドバイスもあり、まずはモデル事務所に登録。ジャスティン・ビーバーの名曲『Baby』を歌う様子をDVDに収録したところ、幸運なことに、人づてに当時ジャニーズ事務所に所属していた岡本健一の元へ。カウアンの熱唱に興味を持った岡本は、喜多川にDVDを渡してくれたという。そして中3の2月の朝だった。携帯電話が鳴った。 「あ。僕だよ。ジャニーだよ」 本人からの「直電」だった。
ユー、ステージ上がっちゃいなよ
「今日、国際フォーラムでSexy Zoneのライブやってるから、来て」 唐突すぎる電話を、人生の一大チャンスだと受け取った。新幹線に飛び乗って、生まれて初めての東京へ。そして東京国際フォーラムで喜多川と対面するやいなや言われた。 「ユー、ステージ上がっちゃいなよ」 5000人の観衆の前で、歌ってみろという。無茶振りだった。ジェットコースターのような展開だが、怯むことなく『Baby』をアカペラで歌った。度胸が認められたのか、そのままジャニーズJr.の一員となった。
あまりにも順調な夢の第一歩だったが、実は大きな問題があった。 「漢字がぜんぜん読めなかったんですよ。だから電車に乗っても目的地にたどり着けないこともあって」 それに、ブラジル人のフレンドリーなノリはジュニアの中でも煙たがられた。 「何かナメてると思われちゃうんですよね。そんなつもりはないんだけど」 日本語が通じるのになんとなく溶け込めない。相手の気に障ってしまう。あるジュニアからは「ガイジンって言っときゃいいと思ってるでしょ。都合いいな」なんて言われもした。そんなとき、間に入ってくれたメンバーもいた。 「カウアンはフレンドリーでいいよね。だけど一歩間違えたら無礼者だよねって言われて。イジる感じでかばってくれた」