「松本人志VS文春」訴えの取り下げをした“決定的な理由”。「強制性の証拠なし」の違和感
お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志氏(61)の性加害を報じた「週刊文春」の記事をめぐり、発行元の文藝春秋などに対して約5億5,000万円の賠償を求めた裁判は、11月8日に松本さん側が「訴えの取下げ」をして終結した。同日には、コメントを代理人弁護士を通じて公表。 松本氏の芸能界復帰を期待する声があがる一方で、X(旧Twitter)では「#松本人志をテレビに出すな」というハッシュタグがトレンド入りするなど、世間の意見は真っ二つに分かれている。 ⇒【写真】「訴状」には、松本さん側が求めた謝罪記事の内容が別紙として添付されていた(筆者が裁判記録を基に、書き写したもの) 呆気ない結末となったこの裁判。松本氏側の「強制性の有無を直接に示す物的証拠はない」とするコメントに、法律関係者は一様に首をかしげる。
法律関係者が紐解く「訴え取り下げの理由」
そもそも名誉毀損とは、その名のとおり「人の名誉を傷つけること」。成立要件は複数あるが、その中でも議論の中心となったのは「真実性の証明」だ。 「真実性の証明」、この文言だけを見ると「『文春報道が真実だった』という確定的な事実が必要である」と思い込んでしまう人もいるかもしれない。だが判例では、取材する側が「真実であると信じるにつき相当な理由」があれば足りるとされている。 すなわち、松本氏は性加害をしていないとしても、文春側が丁寧な取材を行い、性加害を真実として「信じるにつき相当な理由」があるのならば、松本氏側が敗訴する。 法律関係者は、「世間は松本氏側が敗訴してしまえば『性加害は事実だった』、そう考えてしまう可能性が高い。そこで、『訴えの取下げ』をしたのではないか」と指摘する。 実際、世間が注目している“性加害の有無”が、裁判で明確に判断される可能性は低い。世間はそのことを理解するのか。松本氏側が慎重な姿勢を取るのも無理はないだろう。
松本氏側が“闘いを諦めた”とも読み取れるが…
筆者は、先日公開した今回の裁判の裁判記録について紹介した記事で、松本氏側の具体的な弁解をしない歯切れの悪い「訴状」と“ナゾな訴訟行為”について触れた。 3月に松本氏側は、審理の迅速化と記憶喚起を理由に、文春記事の中で匿名となっていた「A子さん」、「B子さん」を特定するための事項の開示を文春側に要求。文春側は2通の裁判書面を提出し、開示を拒否し続けた。 そして、3月から続いた押し問答を、文春側が8月7日付けで提出した「準備書面」で、「真実性」の議論へ駒を進めた。この書面には、取材の経緯と方法などが詳細に記されていた。 そうしたところ、11月11日の非公開で行われる弁論準備期日を前に、松本氏側が「訴えの取下げ」の意向を示すことに。文春側がこれに同意し、同月8日で裁判が終結した。 これだけ見ると、松本氏側が文春側が提出した書面を見て“闘いを諦めた”とも読み取れる。もっとも、これ以降、松本氏側が書面を提出しておらず、反論の意向であったのかも定かではない。 前述の法律関係者は、文春側の8月7日付けの「準備書面」の要旨を読み、「文春側は、A子さん、B子さんといった証人を請求せずに、取材メモやLINEの写しなどだけで闘おうとしていたのだろうか」と疑問を呈した。