考察『光る君へ』30話 晴明(ユースケ・サンタマリア)「いま、あなたさまの御心に浮かんでいる人に会いに行かれませ」道長(柄本佑)動いた、ついに来るか「いづれの御時にか」!
あなた様を照らす光
伊周(三浦翔平)の呪詛、まだやってた。しかしこれも「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」描写なのだが、29話と同じく伊周の呪詛が、道長と倫子との溝を深くしているようにも見える。倫子の血筋と財力、倫子が産んだ彰子は政治家・藤原道長の大きな支えなのだ。 しかし伊周も哀れである。宮中に新たな派閥を作るでなし、権謀術数を巡らせるでなし。道長を追い落とすための手段が『枕草子』頒布を除けば、呪詛だけとは……。 煮詰まった道長は、また安倍晴明のもとを訪ねる。雨乞いの無理が祟り、すっかり衰えた 安倍晴明が言う。 「いずれ必ずや光が差しまする」「もたねばそれまで」 雨乞いの儀式にも通じる、いずれ必ずや雨が降る、それまで体がもたねばそれだけのことだ、という晴明のルール。そしておそらく最期の助言、 「いま、あなたさまの御心に浮かんでいる人に会いに行かれませ。それこそが、あなた様を照らす光にございます」
難しいことを言う女にならないほうが
賢子に手習いを教えるまひろの目も口調も厳しい。まひろ……あなた自身は楽しく学問を身に付けたんじゃありませんか……とハラハラする。「あめ、つち」と書いているのを見て、これはもしや、14話で字を教えていた百姓の子・たね(竹澤咲子)の知的好奇心、向学心、賢さと無意識に比べてしまっているのではないかと思う。そちらにもハラハラする。 助け船を出す為時だが、 「学問が女を幸せにするとは限らぬ」「宣孝殿(佐々木蔵之介)のように、そなたの聡明さをめでてくれる殿御はそうはおらぬゆえ」 えええ……まひろの指導がへたっぴであることを諫めてるのかと思ったら。おじじ様、がっかりさせてくれるじゃん。そこに内記(公文書の交付や記録を扱った部署)に就職し、着物が立派になった惟規(のぶのり/高杉真宙)が訪ねてくる。何かフォローするのかと思ったら、 「賢子は姉上のように難しいことを言う女にならないほうがいいですよ。そのほうが幸せだから」 惟規は惟規で、わかったようなことを言ってくれるじゃないの。これはアレですか……ゆっくり朝寝をさせてくれる油小路の女が、姉とは正反対のタイプだから出てくる言葉ですか。アンタ、ちょっと通う先ができたからって女についての知見を得たとばかりに、つまんないことを言っちゃって! 「左大臣様からじきじきに位記(位を授けた者に与える公文書)の作成を命じられているのですから」 父・為時が左大臣家嫡男・頼通(大野遥斗)の家庭教師、弟・惟規は直接お役目を仰せつかる。道長、元カノとその家族をがっつり経済的援助している。 ところで、29話で明子(瀧内公美)の長男・巌君に舞楽で負けてしまい大泣きしていた田鶴君だが、元服して頼通となり為時の教え子として、 「夫れ呉人と越人は相憎むも、其の舟を同じくして済り、風に遭うにあたりて、其の相救うや左右の手の如し」 (呉人と越人は敵国同士であるが、同じ舟に乗り向かい風に遭ったら、左右の手のように協力して舟を進める) 四字熟語「呉越同舟」の出典『孫子』をすらすらと暗唱するくらいできる公達になっている。道長の後継者として、着々と成長しているのだ。教え甲斐のある生徒を得て、為時も嬉しそうである。花山帝・東宮時代の教室風景とは大違いだ。 四条宮邸和歌教室でまひろが皆に聞かせていた「かささぎ語り」は平安時代後期に成立した男女逆転モノの原点『とりかえばや物語』を思わせるが、内容は少し異なるようだ。 心から女になりたいと思っていた男と、心から男になりたいと思っていた女。 感想を語り合う際に「私は男になりたいと思ったことはないですわ」と困惑したように語る姫君たち。 「男であれば政に携われるかもしれないのですよ」と言うまひろに、 「でも偉くならなくてはそれもできないでしょう?」 男でなければそもそも、偉くなるための努力をすることすらできないのだが。 これが父や弟がいうところの「難しいことを言う女ではない」「女の幸せ」に近い姫君たちか……とでも言いたげなまひろの表情に、もどかしいよねえ、こういうの……と頷いてしまう。 その政に携わっている男たち、道長と公任、斉信(金田哲)、行成(渡辺大知)の酒宴。 野菜や肉を熱い汁で煮込んだ料理を中心とした宴会を「羹次(あつものついで)」というのだそうだ。鶏肉は天武天皇が禁じたので当時は食用とされなかったから、串焼の肉は雉だろうか。 清少納言の『枕草子』が政治的に脅威となっていることが語られ、斉信が 「ききょうめ、あんな才があるとは。手放さねばよかった」 え? ちょっとお待ちになって。さりげなく自分が捨てた女のように言ってますけど、あなた17話で「深い仲となったからって自分の女みたいに言わないで」て言われてましたよね……? もうあの時点で、どちらかというとフラれモードでしたよね? 『枕草子』に対抗できる作品を作るべきではないかという流れで、公任の「自分の妻のところに面白い物語を書く女が出入りしている」という話題から「藤原為時の娘」……まひろに繋がった!ときめきと動揺を押し隠し「ふーん」と言っている道長の表情が傑作であった。