考察『光る君へ』30話 晴明(ユースケ・サンタマリア)「いま、あなたさまの御心に浮かんでいる人に会いに行かれませ」道長(柄本佑)動いた、ついに来るか「いづれの御時にか」!
和泉式部登場!
清少納言(ファーストサマーウイカ)作・『枕草子』が宮中で大流行し、一条帝も皇后・定子(高畑充希)を偲んで愛読するようになる。ここまでは伊周(三浦翔平)の狙い通りだ。『枕草子』で帝を定子との思い出の中に閉じ込める作戦……。 帝の御前なので口には出さないが、「兄上の企みに俺は乗れんなあ」と無言で主張する隆家(竜星涼)。伊周の狙いの路線には彼以外誰も乗っていないのか。 公任(町田啓太)の嫡妻・敏子(柳生みゆ)が主催する四条宮邸和歌教室に、まひろ(吉高由里子)は講師として招かれている。そこには、かつて土御門殿のサロンに集っていたような姫君たちがいて、楽しげに歌や物語に親しむ。……参加者ではなく先生として座るまひろに時の流れを感じるとともに、吉高由里子の演技もさりげなく年を重ねて、中年女性としての佇まいを漂わせていることに感心する。 そして、その和歌教室に和泉式部(泉里香)登場! 濃い紅、しどけなく耳がちらちらと見える髪。セクスィー式部だ……まだ宮仕えしていないので、ドラマのこの時点では「あかね」という名。 こゑ聞けば暑さぞまさる蝉の羽も薄き衣は身に着たれども (蝉の声を聞くといっそう暑い。蝉の羽のような薄い衣を着たというのに) 彼女が身に着けている透けた衣は『源氏物語』に登場する。 『源氏物語』第26帖「常夏」より。 ……姫君は昼寝したまへるほどなり。羅(うすもの)の単衣を着たまひて臥したるさま、暑かはしくは見えず、いとらうたげにささやかなり。透きたまへる肌つきなど、いとうつくし。 (姫君=雲居の雁は昼寝なさっていた。羅の単衣をお召しになり横になっていらっしゃるご様子は、暑苦しく見えず、とても可愛らしく小柄である。透けてお見えになっている肌の感じなど、たいへん美しい) ただしこの羅の単衣姿は、リラックススタイルであったのだそう。雲居の雁はこのあと、父・内大臣に「どうしてそんな油断した恰好で休んでいらっしゃるのですか」と諫められるのだ。服装だけでなく、周りに女房たちが侍っていない状態で昼寝していたことも含めて叱られる場面である。 対して、あかねが和歌教室にやってきた服装は、皆がお嬢様らしいワンピースやブラウス&スカートで集まったところにキャミソール姿で現れたようなものだろうか。 「皆さんもそうしません?」「先生(まひろ)も!」と他のメンバーだけでなく先生までキャミ姿にしようとする。フリーダム……! 敏子に遅刻を咎められて「親王様とお話していたので」。他の姫君からは「親王様がお放しにならなかったのではなくて?」と、からかわれる。 この「親王様♡」とは、冷泉天皇の第4皇子、敦道親王のこと。花山院(本郷奏多)と東宮・居貞親王(木村達成)の弟に当たる。和泉式部は冷泉天皇第3皇子・為尊親王の恋人であった。為尊親王はこの2年前──長保4年(1002年)に病没。悲しみに暮れる和泉式部を敦道親王は熱心に口説き、交際がスタートする。彼女が亡き兄親王と熱烈な弟親王との間で揺れ動き、しかし巧みに恋の駆け引きを展開するさまは『和泉式部日記』で語られる。 『紫式部日記』では和泉式部のことを、 「素敵な恋文を書くようだけれど、感心できないところがある」 「即興の文才があって、なにげない言葉にその才能の香りを感じる」 などと批評している。その文章さながらの登場だった。ただ、感心できないところがあるというのはこういう……TPO無視の服チョイスとか、昼間から酔っぱらって嘆きに見せかけたお惚気をかますとか。そういう意味ではないのではと思って観ていた。ふたりの親王に愛されて応えた、しかも兄親王が亡くなった後に弟親王の求愛に応えたことに、紫式部は少なからず非難の目を向けていたのではないだろうか。 和歌教室の皆が楽しみにして待っている、まひろ作「かささぎ語り」。古来、夜空の天の川に橋を架ける鳥という伝説を持つかささぎが、様々な男女関係を観察し語るオムニバス小説だろうか。 敏子もあかねも、他の姫君も夢中になっているあたり、まひろの物語作家としての才能が開花しているのが見えて、嬉しい。