考察『光る君へ』30話 晴明(ユースケ・サンタマリア)「いま、あなたさまの御心に浮かんでいる人に会いに行かれませ」道長(柄本佑)動いた、ついに来るか「いづれの御時にか」!
子を思ふ道に惑いぬるかな
為時(岸谷五朗)と賢子(福元愛悠)、仲良しな祖父と孫の姿がよい。為時に、賢子に字を教えてやってくれ、甘やかさないでくれと言うまひろに、賢子はあきらかに不満を抱いて反抗している。うるっさいなあと唇をとんがらす賢子、憎たらしい態度を取ってもよちよち歩きの頃と変わらず愛らしい。 人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな (親心は真っ暗ではないのだが、我が子のためという道では迷ってしまうのだよ) 2話でも登場した、紫式部の曾祖父・藤原兼輔の歌だ。2話では、まひろは娘である自分のことを気遣う父・為時を思い、この歌をなぞっていた。しかし親となった今は、娘・賢子の心配をしてこの歌が思い浮かぶようになっている。 彰子(見上愛)が養育する皇后・定子の遺児──敦康親王(池田旭陽)に会うために藤壺を訪れる一条帝。 「だんだん定子に似てきたな」 ……それ、現后である彰子の前で言っちゃいます? そう思ったのは視聴者だけではない。 娘が帝から無視されていることに心を痛める母・倫子(黒木華)の悩みは、ますます深い。 「皇后様が亡くなられて4年だというのに」 「このままでは中宮様があまりにもみじめだわ」 そして、倫子は一条帝に直訴した。 「主上から中宮様のお目の向く先にお入りください」 謁見の場に同席した道長の肝を冷やす大胆な願い出。帝の目尻がチリッとヒリついた。聡明な倫子に似合わぬ発言だが、これも「子を思ふ道に惑いぬるかな」だろうか。 帝への直訴を巡り、意見対立する道長と倫子夫婦。倫子の、 「殿はいつも私の気持ちはおわかりになりませぬゆえ」 この言葉が切ない。夫の心に誰か知らない女が住んでいることには気づいていた。明子(瀧内公美)という他の妻がいることも当然だと思ってきた。だからといって平気なわけではない。そこに道長は気づいていない。夫婦としても父母としても夫とわかりあえないのならば、倫子の拠り所はどこにあるのだろう。