アンプティサッカー5年(上)“片脚のサッカー”ゼロからの日本代表誕生
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カチカチッ、カチカチッ、カチッ。ボールを蹴る音、足音に交じり、明らかに耳慣れない「異音」がするサッカーをご存知だろうか。アンプティ (amputee:切断者)サッカー。その名の通り、片脚や片腕を切断、もしくは先天的に失った人たちが、つえを使って戦うスポーツだ。11月22、23日に、国内クラブチームの戦い、第5回日本選手権が川崎市の富士通スタジアム川崎で開かれる。 【動画】(下)日本の戦術を変えた惨敗、W杯快進撃へ
エラシコや迫力のダイレクトボレー
片脚のない人が ロフストランドクラッチと呼ばれる医療用のつえを使って、フィールドプレーヤーとして6人。片腕のない人がGKを務める、7人制。障害者といえど、熟練者のプレーは圧巻だ。クラッチを支えに脚を後ろに持ち上げ、振り子のようにフォロースルーを入れ、強烈なシュートを放つ。クロスやセットプレーからは、片脚と思えないような高い打点のヘディング。体を投げ出すダイレクトボレーやオーバーヘッドキック。片脚でボールをまたぐフェイントや、エラシコ。スピード豊かなドリブルは2本の脚で立つ健常者さえ抜き去る。トラップ動作を補うためのダイレクトプレーは美しさすら覚える。 接触プレーは茶飯事で、11人制同様、正当なプレーであれば相手が倒れても反則を取られない。プレーの華麗さ、激しさ、戦術。高レベルの対戦では、彼らを障害者、などと呼ぶのがためらわれるほど、エキサイティングな競技だ。 1980年代、アメリカの負傷兵のリハビリとして考案され、日本に"輸入"されたのは2008年。日本選手権は11年から開かれている。たった1人から始まった国内の選手人口は、今では7クラブ、約80人に。まだ普及途上だが、年ごとに着実に裾野を広げている。 ピッチの広さは通常のサッカーの3分の2ほど。6人のフィールドプレーヤーでカバーするにはあまりに広い。選手交代が自由とはいえ、25分ハーフを つえで走り回るきつさは想像を絶する。体験し「走るだけでも無理」と悟り、二度とピッチに立たない人も多い。加えて、ドリブルやシュート、トラップ、パスは全て片脚で、GKも片腕でセービングやキャッチしなければならない。 つえや残ったもう片方の脚(GKは残った腕)でボールを触ると「ハンド」の反則を取られる点も含め、ボールの扱いはサッカーより明らかに難しい。 プレーヤーの中には、義足を使えばフットサルやサッカーを難なくこなせる選手も。Jリーガーを輩出する九州の名門高サッカー部で、義足を着けて3年間戦った選手もいる。パラリンピックの陸上種目出場者もいる。なのに、彼らは義足を脱ぎ、あえて不自由で、過酷な戦いに挑む。何がそこまで彼らをとりこにするのか。日本アンプティ界の5年の歩みを振り返りつつ、魅力を探る。