「戦争の時代」となってしまった「2024年」を「地政学」の観点から振り返る
ロシアとトルコの緊張関係
ロシアとトルコは、これまで、三つの地域で、敵対しあう代理勢力を支援する緊張関係に置かれてきた。ナゴルノ・カラバフ紛争をめぐるアルメニアとアゼルバイジャン、シリアにおけるアサド政権と反アサド勢力のジハード主義勢力、そしてリビアにおけるハフタル将軍のLNAとトリポリの暫定政府GNUである。 これら三つの戦争のうち、ナゴルノ・カラバフとシリアの二つの戦争は、トルコが支援する勢力が勝利を収める形で、収斂をしてきた。ロシアは、いずれの場合でも、トルコと「圏域」を調整する動きを続けつつ、最後は自らが支援してきた現地勢力を見放す形で、トルコの勢力圏の拡大を黙認する態度をとった。それはロシアが、トルコの「圏域」に配慮をしてトルコとの関係維持に努めつつ、優先順位の見定めをしているからだろう。オスマン帝国の復活を目指しているとまで言われるエルドアン大統領は、コーカサスから中東にかけて、影響力を広げている。 トルコは、最近のエチオピアとソマリア連邦政府の関係改善合意の調停者となったことで、アフリカの角地域にも大きな関心を持っていることを示した。ロシアは、イランの「圏域」とともに、トルコの「圏域」を認める「大陸系地政学理論」を応用した「多元的」な世界観にもとづく調整を模索するはずである。 トルコにとって、支援してきたHTS中心の暫定政権ができたことは、大きな成果である。アサド政権が崩壊していく時期にも、ロシアやイランとの調整を欠かさず、成し遂げた。今後も「圏域」の調整を図っていくだろう。 トルコのシリアにおける最大の目標は、クルド勢力の封じ込めである。この目標の達成の障害になるのは、ロシアやイランではなく、アメリカやイスラエルである。アメリカにとってクルド人勢力は中東における有力な代理勢力であり、イスラエルにとっては反イスラエル勢力の影響力の拡大を食い止める障壁である。そこでトルコは、優勢になった立場を活かして、アメリカやイスラエルとの「勢力圏」の調整を図りたいだろう。 「リベラル国際秩序」の普遍主義を掲げていたバイデン政権であれば、調整はより難しかったと思われる。ただしトランプ政権は異なる姿勢をとっていく可能性もある。もっともイスラエルは、妥協的な調整を嫌うだろう。異なる地政学理論がもたらす確執は、シリア情勢の混沌を示唆する。