「戦争の時代」となってしまった「2024年」を「地政学」の観点から振り返る
アフリカにおける橋頭堡と砂漠の海の沿岸部
アフリカでは、東部アフリカの角のソマリアから、西アフリカのサヘル地域に至るまでの帯状の地域で、戦争が多発している。アデン湾や紅海をはさんで中東に向き合うソマリアなどのアフリカの角地域は、地政学理論でいう「橋頭堡(bridgehead)」としての性格を持っている。大陸から海洋に突き出した半島部が、港の埠頭のように機能する、というイメージである。アフリカ大陸がインド洋に突き出たアフリカの角の地域は、アフリカ大陸有数の「橋頭堡」である。 こうした地域では、様々な勢力がぶつかり合う。「英米系地政学理論」にそって言えば、「陸上国家」と「海洋国家」の確執が、先鋭化する地域だ。実際に、ソマリアは、冷戦期から今日に至るまで、戦争の連続の歴史をへてきている。その背後には様々な外国勢力の暗躍もある。 砂漠は海のようなものである。そう考えると、サヘルは、沿岸部に似た地理的性格を持っている。サハラ砂漠を、東西に伸びる海と同じだと考えて、地図を見てみよう。そうすると、砂漠の海の南側の「沿岸部」で、戦争が連なり合って発生していることがわかる。砂漠の海の対岸にあう北アフリカ・中東の騒乱の影響を、正面から受け止めなければならないのが、サハラ砂漠の南側に帯状に広がるサヘルだ。サブサハラ・アフリカの「沿岸部」としてのサヘルは、地政学理論から見れば、様々な勢力の浸透が、確執を引き起こしやすい。 この地理的事情を反映して発生していると言える目に見えた現象の一つが、中東を起源とするテロ組織ネットワークのアフリカへの浸透だ。東のソマリアで長年にわたる戦争を引き起こしているのは、アルカイダ系のアルシャバブである。西のマリで活発な反政府軍事活動を行っているのは、やはりアルカイダ系のJNIMである。もっともナイジェリア北部を中心としたチャド湖周辺地帯で勢力を誇っているのは、イスラム国(IS)系のボコハラムやISWAPである。 アフリカの特徴の一つは、大陸内に覇権的な影響力を持つ土着の有力国が少ないことだ。南部の南アフリカ、西部のナイジェリアが、例外的な存在だろう。しかしサヘルの騒乱のため、西アフリカにおけるナイジェリアの覇権は揺らいでいる。相次いでクーデターが起こったマリ、ブルキナファソ、ニジェールは、フランス軍と米軍及び国連PKOを追い出し、ロシアのワグネルを招き入れて、テロ組織との戦争を遂行している。ナイジェリアを盟主とする準地域機構のECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)からは脱退する。「大陸系地政学理論」と「英米系地政学理論」の世界観の確執は、アフリカ独特の混沌を伴って、大陸内の各準地域で、展開している。