「戦争の時代」となってしまった「2024年」を「地政学」の観点から振り返る
中東における勢力圏思想のせめぎあい
2024年を通じて戦火が広がり続けたのが、中東だ。昨年から始まったイスラエルのガザでの軍事作戦は、終わりが見えない。それに加えて、イスラエルは周辺国の勢力との交戦を続け、レバノン、イエメン、シリア、イランで、軍事行動を行ってきている。 この状態を、大局的に、地政学理論の観点から見るならば、イスラエルは、「英米系地政学理論」における「海洋国家」連合の代理勢力として、中東における敵対者の勢力の拡大を防ぐ行動に出ている、と描写することができる。そのため明白な国際法違反行為が繰り返しているにもかかわらず、欧米諸国から、手厚い保護を受けている。 地政学理論の観点から言えば、イスラエルは、米国を中心とする勢力が、中東に打ち込んだくさびである。イスラエルの存在を通じて、アメリカは、敵対的な勢力が中東を支配下に置いてしまうことを防ぐことができる。国内事情に加えて、地政学的な計算の観点からも、アメリカはイスラエルを見放さない。 この事情の余波が新たな展開を見せたのが、2024年末のシリア情勢の急変であった。アサド政権崩壊の流れの中で、側面支援を、シリア駐留のアメリカと、アサド政権軍に空爆を繰り返したイスラエルが、遂行した。アサド政権崩壊後、間髪を入れず、イスラエルはゴラン高原に侵攻して、一帯を占領下に置いた。 そしてシリア南部のドゥルーズ派を懐柔し、アメリカ軍の基地の存在も念頭に置きながら、北部のクルド人勢力と連携することを狙っている。これらの勢力の連携が果たせれば、シリア東部にイランの影響力の浸透を遮断する回廊を形成することができるからだ。 イスラエルにとって最大の脅威はイランであり、あらゆる行動は、イランの脅威の除去に向かって進んでいる。同じ目標を持ってイスラエルを支援しているのは、アメリカやイギリスを中心とする欧米諸国である。それらの諸国は、イランと連携の度合いを深めるロシアも敵国とみなして、中東における影響力の拡大を封じ込めようとしている。イランとロシアが支援していたシリアにおけるアサド政権の崩壊は、そのような政策的態度がもたらした成果の一つだと言えるだろう。 ロシアは「ユーラシア主義」を標榜し、自らの「圏域(勢力圏)」を固めつつ、中東を経由してアフリカにまで影響力を伸ばす政策をとっている。アラビア半島の付け根に位置する地域の交通の要であるシリアを友好国とすることも、ロシアの利益に資する。その観点から、ソ連時代から続くシリアとの友好関係を維持し、アサド政権を支援して、軍事基地をシリア領内に維持していた。 ただし「ユーラシア主義」の地政学理論から見れば、より重要で強い関心の対象となるのは、イランとの歴史的な蜜月関係を維持し、冷戦時代にアフガニスタンに侵攻までしながら、果たせなかったインド洋に通じる「南北輸送回廊」を発展させることだ。また黒海から地中海を経由して伸びるロシアの影響力は、トルコとの関係さえ良好であれば、直接的にアフリカに通じさせることができる。