「戦争の時代」となってしまった「2024年」を「地政学」の観点から振り返る
トランプ大統領とモンロー・ドクトリン
こうした2024年の現実を見たうえで、2025年の世界情勢を展望すると、アメリカのトランプ政権がどのような政策をとってくるかが、やはり一番の着目点になる。地政学理論の観点からの最大の焦点は、アメリカが「英米系地政学理論」にそった「海洋国家」連合の盟主として、どこまで本当に行動していくか、であろう。 すでにトランプ大統領は、ロシア・ウクライナ戦争の停戦を果たして、ヨーロッパでのロシアの封じ込め政策に終止符を打ちたい姿勢を明確にしている。中東でのイスラエル擁護の立場は強いものであり続けるだろうが、和平を達成したいという意図の発言もしており、他の「圏域」確保を志向する国家群と調整の可能性もあるだろう。 トランプ次期大統領は、中国との超大国間競争関係に注力していく意図を表明している。パナマ運河の運営が中国有利で米国不利になっているという理由で、パナマ政府に運河の返還を求める可能性があるとトランプ氏が示唆したことが、最近でも話題となった。 特に警戒しているのが、経済的権益にも直結している中国の東アジアの外での影響力の高まりだ。ただしバイデン政権とは異なり、「民主主義vs権威主義」のようなイデオロギー的な装いで政策を説明する姿勢をとっていくことはないだろう。トランプ氏は高関税政策を多用する意図を表明しているが、政治的に中国を敵対視したいわけでもないだろう。 実はアメリカは、第一次世界大戦までの時代は、ヨーロッパ列強との間の「相互錯綜関係回避」の原則を固めていた。いわゆる「モンロー・ドクトリン」の外交政策である。トランプ氏の政策が、単純な19世紀の「モンロー・ドクトリン」への回帰だけに終わることはないだろう。しかし、グローバリズムを標榜する普遍主義的な「英米系地政学理論」の伝統から離れて、「大陸系地政学理論」に近づく「圏域」間の調整を一定程度は認める方向に、アメリカの外交政策を転換させていく可能性はあるかもしれない。もしそのような転換が図られるならば、世界の戦争の状況にも、少なからぬ影響が及んでいくだろう。
篠田 英朗(東京外国語大学教授・国際関係論、平和構築)